アレルギー、食べて克服 医師が指示、少量摂取で耐性
 


アレルギー、食べて克服 医師が指示、少量摂取で耐性

子どもの食物アレルギーの治療で、原因となる食べ物を少しずつ食べさせる方法が試みられている。「食べない」という従来の考え方とは異なり、積極的にアレルギーの克服をめざすものだ。医師の指示を受けながら一定期間、決められた量をきちんと摂取することが前提となる。

 横浜市に住む中村太智(だいち)君(6)は3月、国立病院機構相模原病院(相模原市)に入院し、アレルギーの治療を受けた。原因となる食べ物を少しずつ摂取して耐性をつけようという「経口免疫療法」だ。

 中村君は生後6カ月で乳製品や卵、大豆などにアレルギーがあることがわかった。1歳のときには、コーヒーに入れるクリームを誤って口に含み、くちびるが赤くはれて入院した。

 3歳で相模原病院を受診。状況を調べるため、医師の指示の下で対象の食品を食べる検査などを受けた。乳製品に強いアレルギー反応を示す結果が出た。

 小学校入学にあたり、乳製品を食べられるようになりたい、と経口免疫療法を受けることにした。5日間の入院のうち、1日目と2日目は、すりつぶしたカボチャに微量の牛乳をまぜたものを食べ、3日目は1・5ccの牛乳を1回飲んだ。せきがでたり、吐いたりした。4日目は1・5ccを2回、5日目は1・6ccを1回飲んだ。この2日間は、せきが出たものの、吐くことはなかった。

 この治療は、退院後も対象の食品を少しずつ食べ続ける必要がある。中村君は牛乳1・6ccを毎日飲んだ。万一、ショックを起こした時に備え、病院が開いている時間帯に飲むように指示された。1カ月ごとに医師と相談しながら飲む量を増やし、今は1・8ccになった。母親のあかねさん(32)は「食べるものを気にしないで済む生活をおくらせてあげたい」と願う。

 食物アレルギーの患者は0歳児の5〜10%、1〜6歳児の約5%いるとされる。成長とともに原因の食べ物に対する耐性が自然にできて、患者は減っていく。その仕組みは解明されていないという。

 経口免疫療法をするためには、原因の食べ物をどれぐらい食べられるかを判断しなければならない。それには、実際に口に含む検査が有効だ。検査は入院して実施した場合に公的医療保険が2006年に適用され、外来でも08年に対象になった。しかし、この治療はまだ適用外。研究段階のため、受けられる医療機関も限られている。

 相模原病院の海老澤元宏・アレルギー性疾患研究部長は「経口免疫療法の有効性は明らかになってきたが、治ったかの判断は難しい。患者の安全を確保しつつどう取り組むかが課題だ」と話す。

■ 調理法でリスクに差

 食物アレルギーの子どもは、何をどれだけ食べてよいのか迷うこともある。

 相模原病院は、対象の食品を使った料理やその調理法などを具体的に助言している。同じ量の食材でも、調理の仕方でアレルギーを起こすリスクは変わるという。管理栄養士の長谷川実穂さんは「専門的なサポートが大切」と語る。

 厚生労働省の研究班は、食物アレルギーの原因物質が加工食品に含まれている量を調べ、医師向けの「加工食品のアレルゲン含有量早見表」を2011年にまとめた。食べられる量を指導するときは、アレルギー反応を起こさないと考えられる最大量の100分の1を示すとしている。

 研究班の代表を務めた藤田保健衛生大学の宇理須厚雄客員教授は「食物アレルギーに対応しているとうたう飲食店があるが、調理の仕方には基準がないので注意が必要」と指摘する。

 教育現場での対応も課題の一つだ。東京都調布市の小学校で12年12月、給食を食べた児童が食物アレルギーによるアナフィラキシーショックの疑いで亡くなる事故が起きた。

 国立成育医療研究センターの野村伊知郎医師は「アレルギーの対応は、子どもによって異なる。保護者は、担任教諭だけに任せるのでなく、栄養士や校長など、広く状況を伝えておくことが大切だ」と話す。(今直也)

引用: 朝日新聞 2014年5月13日(火)

2014年6月10日更新