危険因子は高脂血・高血圧・たばこ&
脳ドックで早期発見

脳の血管が詰まる脳梗塞(こうそく)や、血管が破れる脳出血で倒れる人を検査すると、実はその前に体に症状が出ない軽い脳梗塞を経験している場合が多い。大事に至る前に「自覚なき脳梗塞」を見つけたい。

東京・杉並区の主婦Aさん(53)はこの秋、プールで泳いでいる最中に突然めまいと吐き気に襲われ、救急車で病院に運ばれた。小脳の左半球が出血していた。

磁気共鳴画像装置(MRI)で検査したところ、大脳の左右に小さな梗塞の痕跡が8つもあることもわかった。以前、軽い脳梗塞を起こしていたが、自覚症状がなかった。気づいていれば、Aさんの脳出血を防ぐ道はあったはずなのだ。

杏林大学神経内科の作田学教授によれば、自覚なき脳梗塞は一般に無症候性脳梗塞と呼ばれる。梗塞の痕跡の直径が1.5センチ以下と小さく、その上、手足のしびれやめまい、頭痛などの症状を引き起こさない脳の部位で発生したときにそんな症状になる。

「無自覚」な症状をどう見つければいいのか。まず年齢45歳以上で、次のような危険因子を持つかどうかが判断材料になる。

@コレステロール値を、善玉と呼ばれるHDLコレステロール値で割った数が6を超えるA最大血圧160以上、最少血圧95以上B空腹時血糖値110以上、食後2時間血糖値140以上Cたばこを吸う――。合わせて父母と祖父母の計6人の病歴を正確に知ると、さらに危険因子の傾向がつかみやすい。

危険因子が1つでも当てはまるようなら、次に脳ドックでMRI検査をする。

冒頭のAさんは、脳出血を発症する前の健康診断で、総コレステロール値237、HDLコレステロール値35。割り算すると6を超える。血圧も最大が172、最少は90.さらに両親が高血圧で、母親の死因が脳梗塞だった。

MRI検査で、1つでも「自覚なき脳梗塞」が発見された場合には、要注意。

自覚なき脳梗塞への
対策7カ条

第1条
たばこをやめる
第2条
危険因子を除くため、減塩など食事に配慮する
第3条

ウオーキングなどの運動をする

第4条

適切な水分補給に努める

第5条
急激な温度変化を避ける
第6条
簡易血圧計を備え、こまめに測定する
第7条
血栓など徴候に応じた予防薬を服用する


Aさんのような脳血管障害を発症する前に、早めに手を打ちたいところだ。作田教授のあげる7カ条の対策は別表の通りだ。

特に、これから冬にかけての季節は、第4条の「水の補給」と、第5条の「温度差を避ける」が大切になる。

1日のうちで、午前4時から午前5時にかけての時間帯が、脳梗塞や脳出血を最も発症しやすい「魔の時間」だ。まくら元に飲み水を置き、その時間帯に水を口に含むようにする。夜中、トイレに立つような時には、布団内と部屋の温度差を少なくする。冬の寒い日にはトイレ内を暖かく保つ工夫も欠かせない。望ましい室内の温度はセ氏15−20度。

昼間でも、冬に外出するようなときは、帽子、マフラー、手袋の3点セットは必需品。皮膚が冷たい外気に直接、触れないようにしたい。

夏場になると、水の補給はさらにこまめにする必要がある。入浴前や、炎天下の外出時などだ。冷却まくらのようなものを携帯し、頭部や首筋など体を外側から冷やしたりすると効果的だ。

第7条「薬の服用」も、症状によって欠かせなくなる。脳ドックの血流検査で、血管が詰まりやすい血栓の兆候があるようなら、医師の処方に従いチクロピジンやアスピリンといった薬を服用して予防に努める。血小板の凝固作用を弱める薬剤だ。

脳梗塞や脳出血といった血管障害は、生命を一瞬にして奪うことがある。そうでなくとも言語障害や、半身不随などの重い後遺症をもたらす。そんな事態を防ぐためにも「自覚なき脳梗塞」の早期発見が大切だ。(編集委員 足立則夫)

(2001.10.27 日本経済新聞)