社会復帰が難しい口腔癌。うがい液で口腔癌の早期発見
 

うがい液で口腔癌の早期発見

剥離細胞を用いて検討、候補となるバイオマーカーを発見

2012年1月16日 釘本琢磨(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎口腔外科学分野) カテゴリ:一般外科疾患・癌・検査に関わる問題

 2011年10月27日に行われた第49回日本癌治療学会学術集会で、「含嗽による剥離細胞を用いた口腔癌検出法の開発」と題して発表した内容の一部を報告する。

 口腔癌の早期発見のために、専門医以外も利用できる簡便な検査法の開発を目指して検討を行った。含嗽により剥離する口腔粘膜細胞を用いて研究したところ、SCCA1がバイオマーカーの候補になり得る可能性があることを突き止めた。


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口腔癌の検査をより身近に!

 口腔癌の罹患数は、年間約7000人と推計される。他臓器の癌と同様に、進行癌では生存率は低くなるため、早期発見・早期治療が重要である。早期に癌を発見し、集団全体の死亡率を下げるには「対策型検診」が鍵となる。現在、わが国では各自治体を中心として、専門医による口腔癌検診が実施されているが、人的資源や財源確保の問題および時間的制約から、一度に多くの対象者を検診することが困難である。一方、広く検診が行われている癌では、自分で検体を採取する検診キットが個人で入手可能になり、高い検出率を示している。そこで、専門医以外も利用できる簡便な検査法の開発を目指し、含嗽により剥離する口腔粘膜細胞を用いた口腔癌検出法について検討した。

対 象

 東京医科歯科大学歯学部附属病院において、口腔癌患者94人(24歳から89歳、中央値62.5歳)、口腔白板症患者18人(31歳から92歳、中央値61.5歳)、対照として歯周炎など癌を有さない患者および健常者80人(35歳から88歳、中央値58.1歳)、計192人を対象とした。

方 法

 リン酸緩衝溶液(PBS)10mLで20秒間強く含嗽した液を回収し、含嗽により得られた口腔粘膜剥離細胞からmRNAを抽出、cDNAを合成し、SYBR Green法によるreal-time PCRを行った。

 内部対照としてβ-actinを使用した。β-actin のCt値が30以上のサンプルは、RNAの破壊や断片化が生じているとして不適格サンプルとした。不適格サンプルは192人中7人(口腔癌5人、対照2人)であった。

 口腔癌性病変(口腔癌および口腔白板症)を検出するバイオマーカー候補として、血清マーカーとして知られているSCCAや、リンパ節転移頻度の高い癌で発現している遺伝子、正常で発現が少なく癌で発現が多い遺伝子を中心に予備的に検討したところ、「SCCA1」「IL15」「THBD」の3つのバイオマーカーが候補となった。この3つの発現量をβ-actinの発現量により標準化し、その結果からROC曲線を描出し、カットオフ値を設定した。各サンプルについて、バイオマーカーの発現量がカットオフ値を超えたものを陽性と判定した。

結 果

 SCCA1をマーカーとして使用した場合には感度72.0%、特異度73.1%、判別率72.4%であり、IL15では感度75.7%、特異度64.1%、判別率70.8%、THBDでは感度56.1%、特異度78.2%、判別率65.4%であった。また、これらのマーカーの組み合わせでも、SCCA1単独の結果より良好な結果は得られなかった。

 そこで、感度を低下させている要因を分析するために、SCCA1を使用した場合において対象症例をより詳細に分類して検討した。感度について、口腔癌と口腔白板症それぞれの病変を単独に対象とした場合には、口腔癌では74.2%、口腔白板症では61.1%と、前癌病変では感度が低下していた。腫瘍径別の感度では、2cm以下では86.7%、2 cmから4cmでは71.8%、4cmより大きいものでは60.0%と、腫瘍径の増大とともに感度は低下していた。その理由としては、進行癌でRNase活性が高いことなどが考えられた。臨床発育型別では、表在型90.5%、外向型91.7%、内向型65.5%と、内向型腫瘍は感度が低下していた。これは、内向型腫瘍では含嗽液に接触する腫瘍の範囲が狭く、回収されにくいことが原因と考えられた。

 以上より、含嗽により剥離する口腔粘膜細胞を用いた口腔癌検出法では、SCCA1がバイオマーカーの一つとして有用である。実用に耐え得る口腔癌検診キット開発のためには、より感度の高いマーカーの探索とともに、より確実な腫瘍細胞回収法の工夫が必要と考えられた。

2012年1月16日 提供:m3.com