声帯麻痺

 

山王病院 国際医療福祉大学 東京ボイスセンター センター長
渡邊雄介先生

声帯の運動支配神経の損傷によって発生する声帯麻痺。
この中で、最も症状の多い片側声帯麻痺をご紹介します。

声帯の運動支配神経である反回神経は中枢から迷走神経として、左は大動脈弓を、右は鎖骨下動脈を反回し、それぞれ声帯(喉頭)に至る(図1)。なんらかの原因で神経に損傷が起きると声帯の運動障害(声帯麻痺)をもたらす。神経は脳から甲状腺、食道、肺、動脈を長く、まさに迷走しているため、それらの、どの臓器に悪性腫瘍や瘤などの疾患があっても麻痺をきたす。例えば、甲状腺癌や大動脈瘤の初発症状が「声がれ」のみで起こることもあり、単に風邪などと片付けずに鑑別することはとても重要である。さらに、気管内挿管やウィルス感染、反回神経周囲を操作する手術で神経を残している場合にも、麻痺をきたすことはあるので注意が必要である。麻痺の状態が片側か両側によって症状、治療方法なども変わるが、殆どの症例は片側が多いので片側声帯麻痺について述ベる。

声帯麻痺

片側声帯麻痺の診断 症状

肺癌や食道癌などの疾患そのものや手術により片側声帯麻痺をきたした場合、発声時や嚥下時に左右声帯がしっかりと閉鎖しないために症状として「声がれ」「むせ」が起こる。声がれの印象は、「ガラガラ声」というよりは「弱々しく息がもれるよう
な声」になる。その特徴的な声と喉頭ファイバースコープなど声帯運動を視診することで診断は得られる。声帯麻痺の診断がつけば、その原因疾患が診断されていなければ、疾患を特定するために脳MRI、肺CT、甲状腺エコー、上部消化管内視鏡などを施行する。

片側声帯麻痺の治療

(1)音声治療

言語聴覚士により健常声帯の代償運動を促進させる発声や声の高さのコントロールで声の改善を得ようとするもの。反回神経が残存している場合にはある程度有効なことも多い。以下2つの手術後にも音声治療を追加することによってさらに良い声を得られる。

(2)声帯内自家脂肪注入術
発声時の間隙を埋めるために麻痺側声帯に腹部から採取した脂肪を注入する術式。麻痺の程度が軽度であれば有効である。
過去にはシリコンなど使用されていたが、最近は使用しない。

(3)披裂軟骨内転術 甲状軟骨形成術
(図2)
70年代に京都大学名誉教授一色信彦により開発された術式。頸部切開を必要とするが生理的に声帯を発声時レベルに移動させることが可能なのでとても有効である。また局所麻酔にて手術をすれば声の改善を確認可能となるため失敗がない。

声帯麻痺

2012年9月 提供:TMDC MATE