スローライフを確立  ストレスのリストラを

いつも何となく不安で、つい取り越し苦労をしてしまう。体には頭痛や肩こり、めまいといった症状が出る――神経症の一種である「全般性不安障害」の一歩手前の段階で悩む人たちが目につく。女性が発症しやすい。ストレス社会が生み出す現代病の予備軍ともいえる病状の実情と対策を探った。

東京近郊に住む主婦Aさん(45)は、3ヵ月ほど前から憂うつな気分になりがちで、人に会うのも煩わしくなった。時々、頭痛に襲われ、寝付きも悪くなった。思い当たる原因もなく、近所の開業医に診てもらったところ「更年期障害では」と言われた。

ストレス社会を映してか、原因不明の不安に襲われ、精神や肉体双方にこの種の症状が出る人が増えている。杏林大学教授(精神保健学)の田島治さんは「全般性不安障害の予備軍的な症状」とみる。

米国精神医学会は、以前、不安神経症と呼ばれていた症状を、全般性不安障害とパニック障害に分類。全般性不安障害の基準を設けている。

●不安や心配、取り越し苦労など精神面での症状が出る。
これに加え、次の6つの症状のうち、3つ以上が6ヵ月以上続く場合、全般性不安障害と呼ぶ。
1.落ち着きがなく、緊張状態が続く。
2.疲れやすい。
3.集中が困難だったり、心が空白状態になったりする。
4.刺激に対し過敏に反応し、攻撃的になる。
5.頭痛や肩こりなど筋肉性の緊張状態が続く。
6.寝付きが悪く、寝てもすぐに目が覚める。

一般的に神経質な性格の人がなりやすいとみられており、医師によっては、更年期障害、自律神経失調症、心身症などと診断することもある。

何らかのストレスが原因になっていると考えられているものの、医師が調べてもストレス源を突き止められないケースが多い。米国では1年間に、この症状にあてはまる人は、成人の約3%にのぼるとみられている。症状が1ヵ月程度続く予備軍はグーン増える。うち女性が3分の2ぐらいを占めるのも、全般性不安障害の特色だ。

治療は、精神科医によるカウンセリングや認知行動療法、めい想やリラクゼーションなどのセルフコントロール法、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や選択的セロトニン取り込み阻害薬などによる薬物療法といったものを組み合わせる。

後でうつ病に発展するケースもあるので、この不安障害の予備軍の段階で、早めに気づき未然に防ぐことが重要になる。

田島教授は言う。「予備軍の仲間入りしやすい人の中には、ストレス対処が下手な人が多い」
まずストレスの発生源となる家事や会合、自分や家族の健康状態、姑(しゅうとめ)との人間関係などを洗い出してみる。大きなストレス源との接し方を変え、ストレスを減量化する。

次にホッとしたり、充実感を味わえたりする自分なりのストレス解消策のレパートリーを増やす。例えば、スポーツで汗を流す。気持ちが落ち着く音楽をCDで聴く。親しい友人に愚痴をこぼす、といった手段をいくつか身に付ける。

ストレス源を減らしたり、ストレス解消策を増やしたりするリストラクチャリング(再構築)。これと並行して、生活のテンポをゆったりさせる「スローライフ哲学の確立」(田島教授)も欠かせない。

放っておくと会社の仕事や家庭生活のテンポは年々速くなる。これが何となく不安な人を増殖させる遠因になっていることは十分予想できる。

だからこそ、ゆっくり食べたり歩いたり、仕事中に息抜きしたりする。1人ひとりが仕事や家庭生活のテンポを意図的に緩やかにすることが、とても大切な意味を持つ、というのだ。
(編集委員 足立則夫)

全般性不安障害“予備軍”の人たちが訴える症状
 
体の症状
・頭痛、頭が重い感じ、
 頭の圧迫感や緊張感、しびれ感
・そわそわ感
・もうろうとする感じ
・めまい感、頭の揺れる感じ、
 船酔いのような感じ
・自分の身体でないような感じ
・風邪にかかりやすい感じ
・身体の悪寒や熱感、手足の冷えや熱感
・全身に脈拍を感じる
・便秘や頻尿
精神的な症状
・注意散漫な感じ
・記憶力が悪くなる感に
・根気がなく疲れやすい
・いらいらして怒りっぽい
・ささいなことが気になり、
 取り越し苦労が多い
・悲観的になり、人に会うのがわずらわしい
・寝付きが悪く、途中で目が覚めやすい

(注)田島治・杏林大学教授の研究を基に作成
(2002.6.8日本経済新聞)