単なる感染でない「蚊刺過敏症」
東京医科歯科大学、研修医セミナー第7週「慢性活動性EBウイルス感染症」─Vol.2
「慢性活動性EBウイルス感染症」
EBウイルスは、ときに臓器に重篤な傷害をもたらす。
慢性活動性EBウイルス感染症の具体的な症例とは。
血液内科の新井文子氏が解説。
蚊刺過敏症から血球貪食症候群を発症した症例
新井 ここからいわゆる慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV:Chronic Active Epstein-Barr Virus infection)とはどういう疾患なのか、を説明したいと思います。
まず症例を提示します。
症例1、28歳女性
小学生のころから蚊に刺されると皮膚が膨張する、というエピソードは、よくアレルギーとかいわれるのですけど、アレルギーというような生やさしいものではなくて、これは有名な「蚊刺過敏症(mosquito bite hypersensitivity)」というものです。結構すごいものです。刺されると腫れるのですけども、だんだんえぐれてきます。そしてだいたい40度ぐらいの熱が1週間ぐらい続きます。
大人の「血球貪食症候群」では悪性腫瘍、特にリンパ腫の可能性を考慮
血球貪食症候群
新井 肝機能傷害、フェリチン、中性脂肪の高値を認めたのですが、こういう状態、つまり汎血球減少があって、凝固障害があって、そしてフェリチン、中性脂肪が高くて、体温が高くて、脾腫がある、という状態は「血球貪食症候群(HPS: Hemophagocytic syndrome)」が疑われます。これは大事な疾患ですので、今日はしっかり覚えていってください。
これは極めて致死率の高い病気です。大人でこれを見たら、悪性腫瘍を考えてください。リンパ腫が多いと思います。後はウイルス感染症、膠原病ですね。二次性がほとんどです。診断基準はここに書いてある通りです。覚えておいてください。
入院時所見
抗体EBV抗体、抹消血TCRサザンブロッティング
この患者の場合、大人で発症した血球貪食症候群だから、リンパ腫とウイルス感染症を疑ってウイルスを調べたら、EBウイルスの抗体価が1万240倍とものすごく高いとわかりました。これだけではなくて、末梢血中のEBウイルスのDNA量を調べると、2.3×10の5乗、つまり23万コピー/μgDNAですね。健常者の値が1×10の2.5乗コピー/μgDNA といわれているので(Kimura et al.Journal of clinical microbiology 1999;37:132.)、ものすごく高いということになります。しかも末梢血の中のリンパ球を解析したところ、T細胞が腫瘍性に増えているという徴候がありました。またサザンブロッティングという方法で感染細胞の性質を調べると、クローン性の増殖を示している、つまり腫瘍の性質を持っていることが分かりました。
全身性血管炎を認めた症例
症例2、41歳男性
新井 もう1例症例を提示したいと思います。この症例は41歳の男性で、2009年に、目の充血を主訴に近医を受診して、ぶどう膜炎と診断されました。その後も再発を繰り返していました。
当院(膠原病内科)受診時所見
著明な心機能低下が認められ(EF20%)心臓の精密検査をしたら、多発する冠動脈粒瘤を認めたのです。また心筋生検では心筋炎という診断でした。リンパ球の浸潤を認めたのです。こういう諸々の所見から膠原病でしょう、ということで、私たちの病院の膠原病内科に紹介されました。
患者は入院後、血管炎としてステロイド治療を始めたところ、入院後1カ月ぐらい経って急に血球貪食症候群を起こしたのです。ウイルスのスクリーニングをしてみたところ、末梢血中のEBウイルスDNA量がすごく高かったのです。12万コピー/μgDNAありました。そこでCAEBVを疑われて、私たちのところに紹介されました。
EBV抗体価
私たちは、今度はCAEBVだという目で、心筋標本にEBウイルスを認めないかどうか、In situ hybridization of Epstein–Barr virus-encoded mRNA (EBER) (EBER-ISH)という染色方法で見てみたわけです。リンパ球のほとんどにEBウイルスが陽性でした。これらは全部、T細胞でした。Bじゃなくて、Tだったわけです。さらに、先ほどの症例と同じようにまたサザンブロッティングという方法で感染細胞の性質を調べると、クローン性の増殖を示している、つまり腫瘍の性質を持っていることが分かりました。
以上の症例から覚えていただきたいのはCAEBVとは単なる感染症ではなく、EBウイルスに感染したT細胞、もしくはNK細胞の腫瘍であるということです。
2013年8月2日 提供:まとめ:星良孝(m3.com編集部)