感染性心内膜炎で脳合併症  口腔内細菌による感染がある
  

感染性心内膜炎で脳合併症

東京医科歯科大学2013年研修医セミナー第9週「感染性心内膜炎」−Vol.4

感染症心内膜炎と脳の合併症をどう診るか。
診断と手術のタイミングを考察する。
東京医科歯科大学循環器内科、瀬谷美瑛氏が解説。
まとめ:星良孝(m3.com編集部)

脳の合併症がある場合と手術のタイミング

講師は東京医科歯科大学循環器内科、瀬谷美瑛氏

 次は、脳の合併症があった別の症例です。65歳の男性で主訴は発熱と意識障害です。来たときは、頂部硬直があり髄膜炎を疑いましたが髄液検査では典型的な細菌性の髄膜炎の所見ではありませんでした。このとき施行したCTでは脳梗塞を認めていますが、septic emboli(敗血症性塞栓)だと考えられていましたこのときのレントゲンは心不全がなく、エコーでもvegetationや逆流はありませんでした。細菌性の髄膜炎もしくは脳炎と言うことで入院しました。

 

症例、65歳男性

症例、65歳男性

 ところが翌日、呼吸状態が急激に悪化しました。このときはSeptic shock(敗血症性ショック)からのARDS(急性呼吸窮迫症候群)の可能性だと考えられたのですが、心エコーをしたときに重症のMR(僧帽弁逆流症、僧帽弁閉鎖不全症)が確認され13mmの大きなvegetationを認めました。このときに、指先と爪の下に塞栓を認めました。急性のMRによる心不全、とvegetationも13mmで、塞栓も起こしているし、感染性心内膜炎の診断で緊急手術を行いました。しかし、術後に瞳孔散大を認め、CT施行すると大きな脳出血を起こしていました。

 脳梗塞を発症して、24時間以内で死亡率は、60-70%です。72時間以内の脳合併症は50%以上と脳合併症が起きやすいです。そのため、脳梗塞が起きる前に本当は手術をしたいです。

 

血液培養2セットからS.aureusが検出、髄液培養は陰性であった

血液培養2セットからS.aureusが検出、髄液培養は陰性であった

脳神経系に合併症を有する感染性心内膜炎の手術のタイミング

脳神経系に合併症を有する感染性心内膜炎の手術のタイミング

まとめ

 

 まとめです。とにかく熱が出たと言うことでしか患者はこないのです。熱が出たと外来にいらっしゃった方、研修医の先生は指先を見るなどの診察をするのかもしれないですが、だんだんこなれてきてしまうと、しなくなってきてしまいます。また合併症も様々ある全身疾患で、手術のタイミングが大事です。ただこれが、いつ手術すればいいと言うのははっきり決まるものでもないので、毎日毎日、時間単位で考えながら治療を行ってください。

抗菌薬の予防投与と基礎疾患

 次に予防の話です。従来、IEの予防のためには、日本も、米国も、欧州も、歯科処置では抗菌薬の投与をしましょうとなっていました。私が大学生の頃は、泌尿器科処置とか生殖系の処置のときも予防的抗菌薬はClass Iaでした、これはちょっと古いやつで次に改訂版を載せています。しかし2007年にアメリカ心臓病学会のガイドラインが大幅に変更されています。

 

抗菌薬の予防投与

抗菌薬の予防投与

基礎疾患

基礎疾患

抗菌薬の予防投与が必要な処置

抗菌薬の予防投与が必要な処置

 

 米国のガイドラインの変更は、抗菌薬を投与することのメリットとデメリットに関してはっきりしているエビデンスがないからでした2007年のそのガイドラインを受けて、2008年、日本循環器学会は、ガイドラインを変更しています。Class Ia、IIa、IIbと書いてありますが日本循環器学会は全部一応推奨しています。ただ、アメリカとかですね、Class Iaだけです。

 どんなときかは、これも日本循環器学会のガイドラインではこのようになっています。以前の泌尿器科や生殖器系は、ガイドラインではClass IIbにあります。ただ、ヨーロッパとか、アメリカでは、もう外れています。日本循環器学会がこのガイドラインで抗菌薬の予防投与の適応を大きしたのは感染性心内膜炎と言う疾患を理解してもらうための警告の意味もあるといわれていまます。歯医者さんで抗菌薬、このことだけが有名になってしまっていますが。抗菌薬の予防投与についてはたぶん今後いろいろと変わってくると思います。ガイドラインもそのうち変わるのではないかと思います。

 

感染性心内膜炎Q&A

瀬谷 ありがとうございました。

司会 せっかくですから何か質問、医学的なことでもいいですし、何か質問はありますか。

 私からひとつ質問していいですか。私、一応、呼吸器内科なのですけども、大体、IEの患者は、肺のseptic emboliで見つけているのですけれども、大体、右心系なのですよね。それで先生が提示された資料はほとんど左心系なのですけれども、どちらが大きいでしょうか。

瀬谷 圧倒的に左心系が多いです。海外では結構、右心系も多いのですが。

司会 左心系の場合は、人工弁が多いのですか。

瀬谷 人工弁も生体弁の場合もあります。

司会 なんか肺の毛細血管でトラップするような気がするのですが。

司会 ご質問はありますか。よろしいですか。それでは本日のイブニングセミナーを終わりにします。

2013年9月4日 提供:まとめ:星良孝(m3.com編集部)