ウイルス感染を立体観察 治療開発に期待、生理研
  

自然科学研究機構生理学研究所(愛知県岡崎市)の永山国昭(ながやま・くにあき)特任教授(生物物理学)は3日までに、ラン藻の細胞内に侵入したウイルスのDNAが、自らを複製する感染の過程を「位相差電子顕微鏡」で立体的に捉えることに成功したと発表した。米ベイラー医科大などとの国際研究で、英科学誌「ネイチャー」が論文を掲載した。

ラン藻とヒトの細胞では大きさが異なるが、永山特任教授は「ヒトのウイルス感染にも観察手法を応用できれば、新たな治療法開発につながるかもしれない」と話している。

位相差電子顕微鏡は、永山特任教授が2001年に実用化した。炭素膜を使って電子線の速度に変化をつけ、透明な細胞などを白黒の濃淡ではっきりと映し出す技術で、従来は難しかったウイルス内部の観察も可能にした。

研究では、急速凍結したラン藻を観察。細胞内で増殖途中のウイルスの形と分布から感染の流れを特定した。

その結果、ウイルスはラン藻の細胞壁から自らのDNAを注射して侵入した後、内部で球状の外殻を形成。膨張してサッカーボール状に変化し、「ターミナーゼ」という酵素が外殻内にDNAを注入する。さらに、攻撃対象に張り付く尾や角が生じ、新たなウイルスとして完成していった。

永山特任教授は「細胞を染色せず、生きた構造を保ったまま観察できた。位相差電子顕微鏡が医学や生物学の分野でも有効だと示された」と強調している。

2013年11月5日 提供:共同通信社