血糖値が急激悪化、その原因は ?
使用薬剤の禁忌に注意!!!糖尿はガン発生が増加する


血糖値が急激悪化、その原因は
東京医科歯科大学、2013年研修医セミナー
第24週「糖尿病の薬物治療」−Vol.5

研修最前線

生活の変化もないのに、血糖値が急激に悪化する。
その裏にはどのような状態が考えられ、薬剤選択はどうすべきか。
東京医科歯科大学医学部附属病院糖尿病・内分泌・代謝内科の三原正朋氏が解説する。
まとめ:酒井夏子(m3.com編集部)

■血糖コントロールの急激な悪化

64歳男性

 それでは症例を基に、血糖コントロールの悪化の原因を考えてみましょう。この症例は3年前に糖尿病と診断された64歳の男性です。経口血糖降下薬を開始され、HbA1cは7%台で推移していましたが、血糖コントロールの悪化を認め、アマリール2mg、メトグルコ750mg、セイブル225mgを内服してもHbA1c8.4%と状態が変わらず、当科を紹介受診されました。体重減少も見られるという患者さんです。

 血糖コントロールの悪化の原因や病態をどう考えるか。どうでしょうか、原因として考えられることがいくつかありますね。C先生。

研修医C 例えば、膵癌だったりすると、体重減少も見られるのでは。

三原氏 そうですね、膵癌、重要なキーワードが出ましたね。膵癌のような悪性腫瘍を合併していることが結構あります。特に高齢の患者さんで、生活習慣の乱れや変化がないのに血糖値が悪化し、さらに体重減少が認められる。こうした場合は、悪性腫瘍の合併の可能性を積極的に考える必要があります。

血糖コントロールの急激な悪化の原因

 血糖コントロールの急激な悪化の原因として、まず一番多いのは食事療法の乱れですね。果物の過剰摂取による血糖コントロールの悪化もあります。また、日常生活の変化、例えば転勤による通勤スタイルの変化などを確認する必要があります。それから、感染症の合併、特に結核は糖尿病の患者さんではリスクが高いので覚えておきましょう。

 その他、インスリン治療中では注射手技に問題があったり、インスリンを打つ場所に硬結(インスリンボール)ができて吸収が悪くなっている場合がありますので、そういった点もチェックする必要があります。また、気付きにくいのですが、認知症を発症していたり、うつ病があって過食になるということもあります。さらには内分泌疾患の合併も頭に入れておきましょう。

■メトホルミンと乳酸アシドーシス

64歳男性

 前述の症例ですが、生活習慣の乱れなど思い当たる所がないということで、悪性腫瘍の鑑別のため造影CTを行いました。ここで、内服薬について注意すべきことがあります。誰か分かる人はいますか。

研修医D メトグルコを中止します。

ビグアナイド薬

 そうですね。メホルミンなどのビグアナイド薬は、インスリン抵抗性を改善する薬で、欧米では第一選択薬です。肝臓における糖新生抑制が主たる作用機序です。わが国でも、肥満・インスリン抵抗性主体の患者さんでは良い適応です。ビグアナイド薬のうち、最も使用されているのはメトホルミンで、このうちメトグルコは1日最大2250mgまで使用できるようになりました。重大な副作用として、乳酸アシドーシスがあります。肝臓や骨格筋での酸化的リン酸化の抑制ならびに肝臓での糖新生の抑制によって乳酸が蓄積しやすくなると考えられます。

血中乳酸上昇とビグアナイド薬

 乳酸アシドーシスについては、起こしやすい患者さんがいることを覚えておきましょう。これは米国のデータですが、乳酸アシドーシスを発症した患者背景を見ると、慢性危険因子として心血管系疾患・慢性腎不全・アルコール多飲などがあります。また、急性危険因子としては、急性腎不全・慢性腎不全の急性増悪、さらに造影剤による急性腎不全があります。すなわち、腎機能が悪くなっている状態では、ビグアナイド薬の使用は非常に危険だということです。ヨード系造影剤を使用するときは、前後48時間服用を中止する必要があると覚えておきましょう。

メトホルミンによる乳酸アシドーシスの特徴

 日本糖尿病学会からも、2012年にビグアナイド薬の適正使用に関する勧告が出されていますので少し紹介します。まず、中等度以上の腎機能障害では禁忌です。腎不全以外にも投与禁忌がありますので注意して下さい。アルコール多飲者やシックデイ、脱水時も禁忌になります。低酸素血症や重度の肝障害時、手術前後も禁忌です。75歳以上では原則、新規投与は推奨されていません。

ビグアナイド薬の適正使用に関する勧告(日本糖尿病学会)

 使いにくい薬だなと思うかもしれませんが、こうした点に注意して適切に使用すれば、乳酸アシドーシスを起こすことは稀です。低血糖も起こしにくく体重増加も来さない。また、安価なうえにエビデンスも豊富であり、非常に優れた薬剤です。最近では、メトホルミンによる癌抑制の可能性も注目されています。

 実は、糖尿病の患者さんは癌になりやすいことはご存知でしょうか。男女とも何らかの癌を罹患するリスクが高く、男性は肝臓癌、腎臓癌、膵臓癌、大腸癌、胃癌、女性でも肝癌、胃癌がリスク上昇と関連することが示されています。また、血糖コントロールが悪い人ほど発癌リスクが高いという報告もあります。

糖尿病患者の癌発症リスク

 メトホルミンは、こうした癌の発症を抑制するのではないかという文献が出てきており、まだ確定的なことは言えませんけれども、血糖コントロール以外にも付加的な価値がある可能性もあります。

■チアオリジン薬使用時の注意点

 もう一つのインスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン薬は、わが国ではピオグリタゾン一種類のみです。チアゾリジン薬は転写因子のPPARγのリガンドで、脂肪細胞の分化を促進して、いわゆる善玉のアディポカインであるアディポネクチンを増やしてインスリン抵抗性を改善します。

チアゾリジン薬(TZD薬)

 問題点としては、むくみが結構多い。特に女性ですね。心不全の患者さんには禁忌です。体重が増えることもありますし、女性では骨折リスクが上昇します。脂肪細胞も骨芽細胞も元は同じ間葉系細胞ですので、PPARγが活性化すれば分化が脂肪細胞へシフトして骨芽細胞への振り分けが減ると考えられます。また、最近では膀胱癌との関連も示唆されています。男性では1万人あたり年間1〜2人程度増やす可能性があると言われています。

 そういったこともあり、最近では第一選択で使用することはありませんが、使用する際には、患者さんにこれらの副作用の可能性についても説明した上で、適切に使うことが必要です(続く)。

2014年4月28日 提供:酒井夏子(m3.com編集部)