精神病床数、日本が突出…OECD平均の4倍

 

「脱施設化」遅れ

 経済協力開発機構(OECD)は、人口当たりの精神科の病床数が、日本は加盟国平均の4倍と突出して多い、とする報告書をまとめた。先進諸国では、精神疾患の患者が病院ではなく地域で暮らしながら治療を受ける流れにあり、報告書では「日本は『脱施設化』の傾向が遅れている」と指摘している。

 報告書によると、人口10万人当たりの加盟国の平均は68床なのに対し、日本は269床と世界で最も多かった。次いで、ベルギー175床、オランダ139床と続いた(病床数は2011年を中心に比較)。

 日本の多くの病床は長期入院患者に利用されているとし、他国と同じように、病院から自宅や地域に戻っても効果的な治療は受けられる--と指摘した。

 厚生労働省によると、精神科の入院患者のうち、1年以上入院している人は3分の2の約20万人いる。

 同省は有識者検討会で議論を進め、入院の必要性が低い患者に退院を促し、病床数を削減する方針だ。今月には、削減により空いた建物や敷地などを、患者向けのグループホームなどとして活用することを認める方針も決めた。

 だが、「病院の敷地内にある限り入院中の生活と変わらず、地域生活とは言えない」などの批判が上がっている。

[社説]精神医療改革 社会的入院の解消を図りたい

読売新聞  2014年7月14日(月) 配信

 入院中心の治療から、在宅療養を支える体制へと、精神医療を転換させることが急務である。

 経済協力開発機構(OECD)が、日本の精神病床数は、人口当たりで加盟国平均の4倍に上っているとする報告書をまとめた。先進諸国で在宅療養が広まる中、「脱施設化」が遅れていると指摘している。

 国内では、34万の精神病床に32万人が入院し、このうち20万人が1年以上の長期入院だ。入院期間は平均約300日で、2週間前後の先進諸国との差が大きい。

 入院の必要性が低いのに、退院後の行き場がないため、病院にとどまる患者が少なくない。長い入院で生活能力が低下し、退院が困難になる例も多い。こうした社会的入院を解消する必要がある。

 日本では戦後、隔離収容型の精神医療政策の下、補助金を出して民間の精神科病院の開設を促した。少ない医師数で多数の入院患者を受け持つ特例も設けた。社会的入院が増加した背景である。

 政府は、2004年に「入院から地域へ」の転換を打ち出し、10年間で7万床の病床削減目標を掲げた。だが、この間の削減数は1万床程度にとどまる。収入減を嫌って病院側が消極的なためだ。

 今年4月には、新規の入院患者を1年以内に退院させる体制や、在宅患者の支援体制の整備を掲げた精神医療の指針が示された。

 入院は重度患者に限り、他の患者は住み慣れた地域で暮らし続ける。その方向性は適切である。

 課題は、長期の社会的入院患者の退院をいかに促進するかだ。

 厚生労働省の検討会は、病床の一部を居住施設に転換することを認める報告書をまとめた。退院の意欲が低い患者の受け皿にして、病院の経営にも配慮しながら病床削減を進めるのが狙いだ。

 しかし、居住施設への転換には、「看板の掛け替えに過ぎない」といった批判が強い。病院の敷地内に囲い込まれるという患者や家族の懸念は、理解できる。

 報告書では、患者本人の選択の自由を確保し、入居期間の規定を設けることなどを転換の条件とした。利用者を現在の長期入院患者に限定する案も示した。

 あくまでも例外的な施策と位置づけ、患者が確実に地域社会に戻れるよう制度設計すべきだ。

 患者の地域生活を支えるには、生活保護費などの金銭管理の支援や相談体制の充実が欠かせない。アパートやグループホームなどの確保も重要だ。自治体と医療・福祉機関の連携が求められる。

引用:読売新聞  2014年7月11日(金) 配信

2014年9月12日更新