歯ごたえのある話

イスラム教の聖典コーランには宗教的な教義だけでなく、様々な法規定が記されています。また、日常生活の行動規定などがみられるのもこの経典の特徴。まだまだ何がいいことで何がよくないことかも判然としていなかった当時の人々のためにモラルや約束事を規定した「生活ハンドブック」だったともいえるでしょう。

そのような性格をもった経典ですから衛生面への配慮もみられます。よく知られているようにイスラム教徒は1日5回アラーの神に祈りをささげますが、礼拝の前には必ず「清め」の儀式が行われてきました。1度の儀式で3回口を水ですすぎますから、1日15回は口を清めることになります。

18世紀後半にシリアを訪れたイギリスの旅行者がイスラムの家庭に客として招かれた際、食事の風景を描写 した記録が残っています。「皆テーブルから立ち上がったあと、再び自分の席に戻り、口と手を清めるために水と石けんが運ばれてくるまで待っていた」。宗教的儀式を通 して、このように衛生観念が根付いていったことが読み取れます。

イスラム教の教祖マホメット自身衛生管理に熱心で、木の枝の天然歯ブラシで歯を洗浄することを人々にすすめ、死を迎えるにあたっては天然歯ブラシとして使われたシワクという木の枝を自分のベッドサイドに置くよう命じたと伝えられています。シワクの枝は現代でも、歯が黄ばんだ時、味覚の後味が悪い時、朝起きた時、そしてもちろん礼拝の儀式として使われているそうです。

イスラム教徒の人々は1日15回もお口をきれいにしてるのです。それに較べると、朝夕2回の歯ブラシなんて簡単なこと、負けずに歯の健康に励みましょう。

参考文献:「歯科医学の歴史」 マルヴィン・E・リング著 谷津三雄・森山徳長・本間邦則訳 西村書店

(2000.10.5 日歯広報)