第17回保団連医療研究集会
「医科・歯科隣接医学〜歯周病を見直す〜」
シンポジウムT
横浜市戸塚区 鈴木歯科医院
管理栄養士   鈴木 和子 氏

 



HECサイエンスクリニックと横浜歯科臨床座談会との医科・歯科共同研究でアンケート・問診と食事指導を担当したが、私の仕事柄、糖尿病と歯周疾患には「食習慣」が共通要因ではないかという考えがあり、今回の共同研究ではその点に絞り対象患者とのコミュニケーションを深めるうちに様々な話しをしてくれるようになった。その中で感じた問題点を3つに絞って報告する。

一つは、「甘みへの依存」が挙げられる。16名の対象患者のうち、特に糖尿病2型(13名)の方の多くは甘いものが大好きで、発病が分かるまでは欲しいだけ食べたという方が多かった。そのため、口腔内を見ると歯科治療を頻繁に受けていた形跡が多く見られた。13名のうち、発病後生活改善に熱心に取り組んでいた方が1名いたが、その方の口腔内は非常に良い状態であった。話を聞くと、糖尿病を発病してから歯や歯肉が悪くなったというより、糖尿病発症の一因でもある食習慣そのもので歯や歯肉が悪くなっていたところに、発病が追い討ちをかけたようにも考えられる。調査対象者は食事指導のもと、何とか成果を残そうと努力していたが、甘いものの誘惑に耐えている姿が伺えた。中には、「発病前は羊羹1本を食べてしまうほどであったが、今は食べることとの戦いである。ダメだと分かっていても食べてしまう自分に嫌悪を感じる」と話してくれた方もいた。甘いものに対する指導項目を医科・歯科が連携して根気よくサポートし、続けていくことで食習慣の改善がかなり期待できる。そうなれば口腔内の改善はもちろんのこと、糖尿病悪化抑制にも繋がっていく。

次に、「噛むことの問題点」が挙げられる。糖尿病患者への食事指導には「よく噛んでゆっくり食べる」という項目があるが、実態をアンケート等で調査した結果、大半の方が「あまり噛まない」「早食い」という回答だった。また噛みたくても噛めない方が調査対象者16名のうち2名いたことから、噛むことが出来ずに悩んでいる糖尿病患者は多くいるだろうと容易に想像できる。その2名のうち1人の方は歯肉の腫脹や歯の動揺などで、やわらかい物しか噛めず「総義歯にでもした方が良いのだろうか」などと呟くほどであった。この方はその後の歯科治療、食事療法などで口腔内の状態が改善し、血糖コントロールもよくなった。また、噛めるようになったことで生活改善に意欲的に望むようになり、調査終了直前には「歯を残すことの大切さに気付いた」と感想を寄せてくれた。血糖値の上昇を抑えるためにも、ゆっくりと良く噛むことは糖尿病治療にはもちろんのこと、歯科の治療においても有効であり、ここでも医科・歯科の連携が必要になってくると思われる。

最後に、「低血糖時におけるケア」が挙げられる。特に糖尿病1型の方については低血糖時の糖分摂取が回数・分量ともに想像以上に多く、歯や歯肉への影響は見過ごせないことが分かった。低血糖時の糖分摂取としてはグルコース(ブドウ糖)が一番勧められるのだが、好みや使い方などを優先して菓子や砂糖入りジュースなど、また、人によってはキャラメルやヤクルト、アイスなどを利用しているのが実態であった。これにより低血糖を起こす時間帯が深夜の場合など、その後の歯みがきどころではなく、倒れこむように寝てしまい、むし歯になるケースが多く見受けられた。この低血糖時の糖分摂取については、医科側も問題のひとつとして認識していただきたい。同時に歯科でも糖分摂取後のケアの方法や、血糖値をあげて、しかも歯や歯肉への影響が少ない糖分の選択、開発が望まれる。

今回の共同研究で、糖尿病と口腔内の両方に悩まれる患者さんの話を聞き、その実態を知るにつれ、医科と歯科との連携がとても重要なものであり、それが患者さんへの幸福につながるものであると強く感じている次第である。

2003.2.5 神奈川県保険医新聞