筋力呼び覚ます
負荷軽く、介護度改善も

介護保険の対象となる高齢者向けリハビリ法「パワーリハビリテーション」の導入が全国の自治体や老人保健施設で進んでいる。専用のトレーニングマシンを使い、軽い負荷で使われなくなった筋肉の力を回復させるもので、介護の度合いが改善するなど効果を上げている。体の切れに不安を抱える中高年にとっても参考になりそうだ。

東京・葛飾区の同区シニア活動センター。男女12人のお年寄りが大きな声で数えながら、胸部を強化するチェストプレス、ひざの曲げ伸ばしのレッグエクステンションなど6台のマシンに順番に乗って体を動かす。参加者は介護が必要な度合いのうち要支援から要介護1、要介護2までの人たちで、約3カ月、週2回、自宅から通う。

5月からトレーニングに参加している小宮敏江さん(66)は慣れた様子でマシンに乗り、理学療法士やボランティアに見守られながら、息を弾ませ、笑顔もこぼれる。

小宮さんは昨年10月、畑で農作業中に転んで動けなくなった。病院を出た後、今春まではつえがないと歩けない状態だった。パワーリハビリが中盤に入った今、小宮さんはマシンの負荷も少しずつ上がり、自信がついているようだ。「入院したころは大変つらかったんですが、室内ならつえなしで歩けるようになりました。うれしいです」

介護の必要な高齢者とトレーニングマシンの組み合わせには意外な印象を受けるが、これらのマシンは負荷の最低目盛りがごく小さいのが特徴。ほとんど負荷を感じない2.5キログラムから0.5キログラム単位で調整できる。参加者は最低レベルからスタートして、無理をしない範囲で徐々に負荷を上げていき、その結果、体の動きを改善していく。

100歳まで元気に

このパワーリハビリを提唱し、2002年に「パワーリハビリテーション研究会」を発足させた国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授は「これまで、高齢者のためのリハビリというものがなく、ただ歩きなさいという程度だった。パワーリハビリは軽い負荷の運動で"冬眠"していた筋肉を目覚めさせ、活動性を高める。百歳くらいまでは元気に戻せる」と説明する。

昨年度から実施している葛飾区では、今年1月−3月の2回目で、参加13人中4人が要介護2から1へ、3人が要介護1から要支援へ介護度が軽くなる効果を上げた。

パワーリハビリは昨年から急速に全国に広がり、実施している自治体や施設は500を超える。きっかけは昨年度から厚生労働省が機器の導入や運営費などに補助金を付け始めたことだ。年々、膨れ上がる介護費用に歯止めを掛けるカギとなるのが「介護予防」。そのための柱としてパワーリハビリが脚光を浴びている。まだ、介護総費用の節約になるかどうかは未知数だが、導入施設は増え続けている。

広い意味で介護予防を進めるには、健康に不安を覚え始める40−50代のうちに筋肉を衰えさせないことが大切、というのが多くの専門家の意見。軽い負荷でふだん使わない筋肉の機能を回復させるパワーリハビリの考え方は中高年にも応用できるかもしれない。

身近なところにあるのはフィットネスクラブ。しかし、筋トレマシンは最初から重い負荷が設定されていてきついのではないか。そう思ってフィットネスクラブ大手、ルネサンスの品質管理部長、望月美佐緒さんに尋ねたところ、「いえ、大丈夫ですよ」と現場に案内してくれた。

本社に併設のクラブにおいてあるマシンを見せてもらうと、ほとんどのマシンの負荷の最低レベルはパワーリハビリのマシンと同じ2.5キログラム。目的の違うマシンだから同列には扱えないが、軽い運動ができることは間違いない。

中高年はジムでも
「最近は軽い負荷で必要な筋力をつけたり、バランスを整えるプログラムが増えました」と望月さん。筋力のバランスを整えながら、強化するために、不安定な大の上でバーベルを上下する運動もある。バーベルといっても、初心者はおもりを付けずシャフト(棒)だけでもいいという。

こうしたプログラムにフィットネスクラブが力を入れているのは、会員の年齢層がここ10年で激変しているからだ。ルネサンスの場合、94年に27.4%だった40代以上の会員が、昨年は54.7%と倍増している。この傾向はどのクラブにも共通だ。

フィットネスクラブやジムで眠っている筋肉の回復を図るには、トレーナーにはっきり目的を話して、無理のないプログラムを組んでもらうことが大切だ。
(編集委員 大橋牧人)
2004.6.26 日本経済新聞