歩き疲れ・肩こり
姿勢の矯正にも

競技スポーツではおなじみのテーピング。ねん挫や肉離れの応急処置に活躍するが、日常生活の悩みにも応用できることはご存じだろうか。長距離を歩き足が疲れた、肩こりがとれないといった症状や、たまに体を動かす際にはケガの予防につながる。「簡単テーピング」で、しなやかに動く体を目指そう。

東京都文京区に住む中村和代さん(57)は5月、ニチバンが主催する「生活テーピング講習会」の門をたたいた。整骨院でのテーピング治療で楽になったと話した亡き父を思い起こし、「足腰が衰え、出歩かなくなった母に役立てたかった」と応募動機を振り返る。

伸縮性テープを使う

3時間の学習を生かし、足の疲れを防ぐ巻き方を母親に施すと、「足が軽くなったと、近隣のファミリーレストランまで一緒に徒歩で向かった」。自身趣味の太極拳で太ももの裏に痛みが走った時には、テープを貼(は)って仕事をやり遂げた。今では「カバンの中にテープを常備している」そうだ。

中村さんが応用した技術は、「健康テーピング」などとも呼ばれる。初心者でもたるみを防げるよう、伸び縮みするテープを利用。「1人でもでき、習得も難しくない」とは、「誰も知らなかった!1枚貼るだけでこんなに効く健康テーピング」(実業之日本社)の著書、山本忠雄さんの言葉だ。

一方、サッカー選手らが行う「スポーツテーピング」は、主に収縮性のないテープでしっかり固定するため難しく、経験が求められる。ただ、基本的な考え方はどちらも同じだ。

血液の流れ止めず

日本歯科大新潟歯学部の影山幾男助教授(解剖学)は、「筋肉や関節の動きを制限し、痛みを起こす場所まで曲げないようにすることが1つ。巻き付けることで、安心感が生まれる心理的な側面も見逃せない」と説明する。テープの持つ伸縮性が筋力を補うほか、姿勢を矯正する機能も発揮する。

公的資格がなく、巻き方は多様。今回、山本さんのほか、市民向け講座で講師を務めるニチバンの斎藤隆正さん、ソニー企業(東京・港)の鹿倉二郎さんの手法をイラストで紹介した。

用意するのは、伸縮タイプのテープとはさみ。テープはドラッグストアやスポーツ専門店に並んでいる。幅は複数あり、使用場所によって変わるが、太ければ縦に割き、細い場合は2枚並べることで対応が可能。50ミリ前後の幅なら1000円以下で手に入る。ニチバンは、用途に応じた形に切った「バトルウィン生活テーピング」も発売している。

巻く前には汗をぬぐい、粘着力を落とさないように。男性選手は「電動バリカンで体毛をそることが多い」(鹿倉さん)が、日常使いでそこまで気を使わなくても大丈夫だろう。引っ張る強さは、少し力を入れる程度。「血液の流れを止めずに、筋肉のけいれんが起きないように、巻かれる手や足は力を入れる」(同)ことも大事だ。

長時間使用避けて

よく問題になるのが皮膚のかぶれだ。斎藤さんは、「両端は体から少し浮かせて巻き、最後にそっと押さえる」方法を薦める。長時間の使用は避ける。できれば6時間以内、長くても就寝前にははがす。頻度は、「多くても1日おき。少しずつ貼る個所をずらすとよい」。

はがし方はテープを引っ張らず、体毛の流れにそってテープから皮膚をはがすような感じで、押さえながらゆっくりと。「トレーニングで筋肉に張りが出たり、腰の座りが悪いと感じたりすると、1枚貼る」と競輪選手の三宅勝彦さんが実践しているように、年齢性別や筋力の強さに関係なくできる。

山本さんは、ストレッチを組み合わせると、より効果的と助言している。最後に間違ってはいけないのが、「テーピングは体の痛みが出ないようにするが、治療はできない」(影山助教授)点。体が楽になっても、治癒しているわけではない。ねん挫などに直面した際には、安静にして応急処置をしたうえで、専門医の診断を受ける。テーピングするだけで放置するのはやめよう。

テーピングでしなやかな体に

腰痛がある時に
斎藤さん式、テープ幅50mm程度
1両端を持って引っ張り、腰の痛い部分に押しつけるように貼る
2痛みのある部分で2本が交差するように
ハイキングの前や、長時間の立ち仕事で足の裏が疲れた時に
鹿倉さん式、テープ幅75mm程度
1足の甲の内側から土踏まず、内側のくるぶしへと引っ張り上げるように巻く
2テープを半分に切り、両端を外側のくるぶしの少し上で重ねる

四重肩や五十肩などで肩が上がりづらい時に
山本さん式、テープ幅75mm程度
1両端の中央に5cmほどの切り込みを入れ、ひじの上に片一方の切り込みをY字型に開いて貼る
2引っ張り上げるようにして肩にもう一方を貼る。Y字型の中央に肩の骨がくるように

2004.8.14 日本経済新聞