心筋梗塞など招く恐れ

 

虚血とは、臓器や組織に供給される血液が必要な量に比べて著しく減少した状態をいう。強い痛みを伴うことが多い。

心臓に血液を供給する冠動脈が狭窄(きょうさく)・閉塞(へいそく)を起こすと心筋虚血となる。一過性の心筋虚血は狭心発作という比較的短時間の胸痛を伴う。虚血が原因で心筋が壊死(えし)状態、つまり心筋梗塞(こうそく)に至るほどの場合、"死の恐怖を伴う激しい胸痛"に襲われる。腸を養う上腸間膜動脈の閉塞では、やはり直後から激しい腹痛を伴う。
動脈の狭窄・閉塞が徐々に起こる場合、体は別ルートでその先に血液を送ろうとする。いわば迂回ルート(側副血行路)をつくるのだが、本来のルートに比べると予備の供給力が乏しいため、必要な血液量が増加すると、これに応じて増やすのは困難になる。この場合、相対的に供給される血液量が減少し、結果として虚血となった部位に痛みを感じる。
典型が閉塞性動脈硬化症に伴う下肢の痛みである。この病気では動脈硬化により、下肢に血液を送る動脈が徐々に狭窄・閉塞状態となる。安静時は問題ない。歩行を始めると下肢筋肉の酸素消費は増加し、必要とする血液量が増える。道路の信号を2つ程超えて歩くと、足が痛くて歩行障害が起きる。少し休むとおさまるが、歩くとまた痛くなるという具合だ。虚血に伴う痛みは、速やかな対処を必要とする緊急の危険のシグナルと言える。
(東京医科大学教授 行岡 哲男)

2004.5.11 日本経済新聞