一人暮らしの食生活

春から1人暮らしになった新入社員や新入学生、転勤者も、そろそろ生活環境の変化に慣れてきたころだろう。単身生活は家族や親から開放される自由がある反面、炊事、洗濯など不自由な雑事も多い。とくに健康への影響が心配な食生活について、どんなことに留意すればいいか、まとめてみた。

明治生命厚生事業団の体力医学研究所・健康易学研究室長である須山靖男さんは、20代から60歳までの明治生命社員約3万人を対象に、「家族と同居」「単身赴任」「配偶者なし」の3グループに分けて食事の内容、とくに食事の品数を調べた。その結果、単身赴任者、独身者といった1人暮らしは全般的に、家族と同居に比べ食事の内容が乏しいことがわかった。ご飯やパン、めん類など主食類、肉・揚げ物など油脂類、野菜・果物の3群のいずれでも、摂取する食品の種類が数品目少ない。

ほかの各種調査でも、独居者は「摂取品目の少なさ」「栄養の偏り」を自覚しているという結果だ。自炊するにしても、嫌いな食材を使わないなど、品目数は少なくなってしまいがちだ。

面白いことに、夫が単身赴任のため離れて暮らしている奥さんも、独居者と同様に摂取品目が少ないケースが多い。夫がいないのでつい手抜きを、ということかもしれない。「食事の際、1、2品多くとることをいつも意識することが大切」と須山さんは語る。

喫煙との関連もある。東京都老人総合研究所にいたころ、須山さんが喫煙習慣と摂取食品の関係を調べた調査でも、喫煙者は明らかに非喫煙者に比べて摂取品目数が少ない傾向が出た。

例えば、緑黄色野菜を週のうち何回とるかをみると、全体平均の8.33回に対し、非喫煙者では8.54回と上回った。喫煙者は逆に摂取回数が少なく、毎日20本以上で7.51回、同19本以上で7.51回、同19本以下で8.06回だった。乳製品、いも類、果物でも同様だった。

たばこが悪いというより、喫煙習慣がある人はもともと健康に配慮する意識が薄いということの表れだろう。1人暮らしで、しかも喫煙している人は、人一倍注意が必要だろう。

いろんな食品を組み合わせてバランスのとれたものにする、1日3回規則正しくとる――というのが、よく知られた食事の原則。1人暮らしでもこれは是非守りたい。

とくに1食抜きは禁物。忙しい、ダイエットをしているということで朝食などを抜く人が多い。厚生省の国民栄養調査でも朝食を食べない比率はじわじわと増加している。とりわけ20代では男女とも突出している。1食抜くと、それだけ1日に摂取できる食品の品数は少なくなる。長時間食事をとらずにいると、体の消化吸収力を高めて肥満につながるとされている。

3食をきちんととることと同時に、昼食をしっかりとることを勧めたい。その際、めん類などの単品型ではなく主食と主菜・副菜、汁もののバランスが取れた定食型がよい。

コンビニ弁当を活用する手もある。結構バランスがとれた内容だから、これを残さずに食べるようにする。そして、ヨーグルトや野菜の煮物、おひたしといった小さな単品を添えることも忘れずにしたい。

このような点は、頭ではわかっていても、なかなか実生活に反映できないのが現実。「毎日実行しなければという義務感を持つと、かえって負担になる。週のうち1日でも2日でもいいから完全に実行することで、効果は十分ある」と専門家はアドバイスしている。
(編集委員 中村雅美)





外食で注意したいこと
(山口大学保健管理センターによる、寮やアパートで独り暮らしをする学生向けの食生活アドバイス「外食で注意したいこと」より。インターネットのアドレスは
http://www.cc.yamaguchi-u.ac.jp/)
単品料理は避ける
ラーメンやスパゲティ、カレーライスなどの単品料理は一般的に、穀類の取りすぎや栄養的なアンバランスを招く
定食ものを選ぶ
脂肪の少ない肉、たっぷりの野菜、ご飯は適量というのが理想。野菜は残さずに
丼(どんぶり)ものは具の多いものを
中華丼、親子丼、五目そばなどはたんぱく質、ビタミンなどのバランスがよい
外食は1日1回が限度
食事時間は規則正しく
食堂などが込み合う時間帯をずらし、決まった時刻にゆっくり時間をかけて
好きなものだけ食べない
好きなものだけ食べない
食べたいものだけ食べるのはだめ。栄養などを考え、偏りのない食事内容に
2000.5.5 日本経済新聞