季節の変わり目には体調を崩すことが多い。急に寒くなるときには風邪にかかりやすい。貝原益軒も『養生訓』の中で「風邪をふせぎ、(中略)痰咳(たんせき)のうれひをまぬがるべし」と注意を呼びかけている。

風邪は予防が第一だ。ウイルスは低温、低湿の環境を好む。室内の空気が乾燥しているとウイルスが長時間、室内を漂うことになる。加湿器で適度な湿度を保つような工夫が必要だ。なるべく人込みを避け、帰宅したらうがいを心がける。のどの乾燥を防ぎ、手洗いして接触感染を防ぐ。十分眠り、ビタミン類もたっぷり取ること。

治療は体を暖かくして安静を保ち、水分を十分に補給することが基本となる。鼻水、のどの痛み、たんとせき、頭痛、発熱などに対しては、せき止めや抗アレルギー薬、鎮痛解熱剤などで対処するが、ぜんそく患者の場合は鎮痛解熱剤で発作を誘発することがある。小児ではアスピリンで急性脳症の副作用を起こすこともある。鎮痛解熱剤が必要な場合、最近は副作用が比較的少ないアセトアミノフェンを使うことが多い。

風邪はほとんどがウイルス感染である。基本的に抗生剤は効かない。しかし気管支炎、肺炎、へんとう炎やへんとう周囲炎などの二次性の細菌感染を起こすこともある。こうした場合には迅速な抗生剤治療が必要になる。アレルギー性鼻炎や肝炎などの初期症状では風邪と間違うことがあるので注意が必要だ。

この季節に怖いのがインフルエンザ。高齢者などは死亡することもある。急激に発症し、悪寒とともに38度以上の発熱が出る。体がだるくなり、関節痛や筋肉痛、頭痛も起きる。せき、のどの痛み、鼻水、くしゃみのような風邪症状を伴うことも多い。

抗ウイルス剤は発症48時間内に使わなければ効果が少ない。迅速に診断するキットを準備している医療機関も多いので、疑いがあるときは悪化しないうちに受診する。今年も流行が心配される。予防にはワクチンの接種が効果的で、特に高齢者や心臓病やぜんそくなどの呼吸器疾患の人は早めに接種しておこう。
(国立長寿医療センター疫学研究部長 下方 浩史)

2004.11.7 日本経済新聞