「韓国料理はおいしいが、日本料理のように食材の持ち味を十分生かしていない」とよくいわれる。シンプルな味付けをする日本料理と異なって、複雑微妙な味付けをするからだ。しかし、よく考えると薬食同源の思想を見事に取り入れて料理をしていることが分かる。

薬食同源とは薬も同じ源という意味で、薬と食を明確に区別していない。2千年ほど前の中国の医学書「黄帝内経太素」の中にある「五穀、五畜、五菓、五菜これを用いて飢えを満たすときは食といい、それを用いて病を療するときは薬という」という記載から出たものだと思う。この思想は中国から朝鮮半島の三国時代(四世紀から七世紀後半)に入ったようだ。

韓国の薬食同源思想の代表といえる一例が、薬念(ヤンニョム)である。薬念とは健康づくりのために、薬味(香辛料)と調味料を、まるで薬を調合するかのごとく組み合わせて、肉や魚介、野菜料理に入れ、おいしくなるように心に念じて味付けをすることである。

基本的な薬味はニンニク、唐辛子、ゴマ、ゴマ油、他にショウガ、ネギ、ニラ、からし、サンショウ、コショウ、エゴマなどを使う。漢方生薬として使う物ばかりだ。調味料には塩、しょうゆ、みそ、コチュジャン(唐辛子みそ)、砂糖、ハチミツ、水あめ、酢などを用いる。

薬味や調味料の種類は料理によって入れるものが多少異なるが、組み合わせは酸っぱい、苦い、甘い、辛い、塩辛いという五味のバランスをとることにも結びつく。ただ辛いだけではない韓国料理のうまみの深さを作ることにもつながるのである。
(新宿医院院長  新居 裕久)

2005.1.29 日本経済新聞