カロリー抑え体重管理 体調不良なら避けて

「朝食抜き」はダイエットの手軽さで古典的な手法だが、「元気が出ない」「かえって太る」などの“定説”が支配的でこれまで一般 的に敬遠されてきた。ところが「1日2食で十分」「体質改善には効果的」として朝食抜きの効用を唱える医師が出てきた。両者の争点を探ってみると。

「これだけ栄養の過剰摂取が問題になる時代では、朝食に執着するよりも、体重管理のほうがはるかに重要。デスクワークが中心の人なら、朝食を抜くことはむしろ合理的な選択だ」と言うのは、四谷メディカルサロン(東京・新宿)の風本真吾院長。

1日3食をきちんと取っても、肥満のままでは生活習慣病にかかりやすい。本来なら、食後の活動量 が最も少ない夕食の量を減らすのが理想だが、現実には夕食をおいしく食べることがストレス解消になっていたり、付き合いや接待で減らせない人が多い。「それなら朝食を抜いて1日400−500キロカロリー減らせばよい。これで1カ月に2、3キロ落とすことが可能」と風本院長。

「朝食抜きは体重管理だけでなく、実は人間の生理にもかなった行動である」とまで言うのは、「朝食有害説」(情報センター出版局)を著した渡辺医院(東京・中野)の渡辺正院長。

長年、朝食抜きの健康法を指導している渡辺院長によると、朝は排せつに適した時間帯という。前日摂取した食べ物のカスを午前中に掃除しておくことが健康につながる。排せつ前に食事を取ると消化活動が本格化し、排せつが中途半端に終わってしまう。「朝は水かお茶を飲むのにとどめるべき」という。

しかし、日本人の間では「1日の活動源である朝食はしっかり取るべき」という観念がかなり定着している。体重管理や排せつが大切と分かっていても、「力がでないのでは」という不安が残る。

朝食を重視する背景に、朝食を抜くと血糖値が低下して、脳にエネルギー源のぶどう糖が行き渡らなくなり思考能力や活動に影響が出るという考え方がある。

80年に自治医科大学の教授だった香川靖雄教授(現在は女子栄養大学副学長)らが「朝食抜きの学生ほど成績が悪かった」という論文を発表したのを受けて、“朝食信仰”が完全に定着した。

一方、浜松医科大学の甲田勝康医師は、朝食の有無が体に与える影響を検証するため、男女の学生8人を対象に生活条件を同一にして、朝食を抜いた時の血糖値などを比較した。

すると、全員が朝食抜きでも低血糖状態にならなかったばかりか、昼食直前の血糖値は朝食を食べた時とほとんど差がなかったという。血中のぶどう糖がなくなっても、体脂肪からの合成などで賄っていると考えられる。

これに対し、脳の研究者の間では、朝食を重視する考えが根強い。大阪大学の中川八郎名誉教授は「一定以上の血糖値を維持しないと脳がぶどう糖を摂取しにくい構造になっている」と指摘する。食後の血糖値が上がった時に、脳によるぶどう糖摂取が最も効率的になるという。

このように、専門家の間で大きく意見が分かれるのが、朝食抜きが血糖値の推移を通 じて脳などの活動にどう影響するかという点だ。現状ではどちらに分があるとの結論は見いだしにくい。

ダイエットに関しては、朝食を抜くことで1日の摂取カロリーを減らせば効果 がありそうだ。だが、昼食や夕食の量がかえって増えてしまう人には逆効果 。朝食をやめた当初、体が慣れないうちは疲労感を覚えることもある。風本院長は「一週間続けてなじまなかった人には向かない」という。

糖尿病や胃かいようの患者が自己流で朝食を抜くのは危険なので、自分の健康状態や生活習慣を考えながら、専門医と相談することが大切だろう。

(2000.8.19日本経済新聞)