人生80年といわれるが、新聞の死亡欄で働き盛りの著名人が亡くなるのをしばしば目にする。社会的に現役で活躍できる人が亡くなる場合、多くはがんが原因だ。2001年の統計だと、がんは35−84歳で死因の1位、50−79歳に限ると3分の1から約半分を占める。

84歳まで生きている男性の3人に1人、女性の5人に1人は一度はがんにかかることになる。がんが治る確率(5年生存率)は種類によっても大きな差があるが、全体だと五分五分(1993年診断例の全国推計値)。がん死亡者数は1960年ごろは10万人にも満たなかったが、現在は30万人を超えた。

環境の悪化で増えたととらえる人もいるが、実は違う。日本の高齢者人口が増えていることが最大の原因だ。年齢構成が昔も今も同じと仮定してがんの死亡率を計算すると、男性は横ばい、女性はむしろ減少傾向にある。

がんの種類で増減傾向も異なる。胃や子宮のがんは着実に減ってきている。一方で、肺、大腸、前立腺、乳房のがんが増えている。戦後の日本人の生活習慣が大きく変わり、がんのパターンも欧米型にかわりつつあると解釈するのが自然だろう。生活習慣が原因であれば、がんになる確率を引き下げることも十分可能ということになる。

これまでに主に、疫学と呼ぶ手法で生活習慣とがんとの関連を研究してきた。例えば10万人の生活習慣を調査し、その後の病気の発生を追跡する。食事や喫煙の有無などの生活習慣が、がんや脳卒中にどう結びついているのか統計的に比較検討している。

がんに絶対ならないすべを示すことはできないが、がんになる確率を下げるため、最新の科学的根拠に基づいたアドバイスは可能だ。科学的根拠はどのような研究でどうつくられるのか。平均寿命前の死亡や生活の質の低下に結びつくがんを中心とした病気について、見返りが期待できる予防法を連載していく。
国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎
2005.4.3 日本経済新聞