健康な人向け
薬代わりダメ

「トクホ」の呼び名で親しまれている特定保健用食品は、健康維持効果が科学的に立証され、国がお墨付きを与えた健康食品だ。ヨーグルトや食用油など種類は多彩で、コンビニなどでも気軽に買える。生活習慣病にはうってつけだが、薬の代わりになるものではない。「血糖値の上昇を抑える」といった効能を引き出すには、正しく摂取することが大切だ。

伊藤園は現在、3種類のトクホ飲料「緑茶習慣」「ナタデココ ヨーグルト味」「充実野菜ベジタブル&ファイバー」を販売する。表示内容によると「緑茶習慣」は食後の血糖値上昇をやわらげ、ほかの2種類はおなかの調子を整えてくれる。添加されている機能成分は、どれも難消化性デキストリンと呼ぶ食物繊維だ。

現在、2つの効能をうたったトクホはあまり例がない。「ナタデココ」「充実野菜」は飲料内の糖質分が血糖値に影響を与えるため血糖値上昇を抑える効果は期待できないが、普段からお通じのいい人が「緑茶習慣」を飲むと食物繊維の整腸作用でおなかが緩くなることもある。

糖尿病の診断目安になる血糖値が気になり始めた人を対象としたトクホはたくさんある。伊藤園の商品と同じ難消化性デキストリンを含むものが多い。トウモロコシやジャガイモのデンプン成分から生成するこの水溶性の食物繊維は、食事で取ったご飯やパン、うどんなどの糖質の小腸での吸収を邪魔するため、食後の血糖値上昇を抑える。「血糖値トクホ」は食事と一緒に摂取するのが原則だ。

おなかがすいた状態で測る「空腹時血糖値」への直接的な効果は期待薄。職場の健康診断でこの血糖値が上昇、糖尿病予備軍に仲間入りしたからといって、お茶や水代わりにがぶがぶトクホ飲料を飲んでもあまり意味はない。

トクホになるには、安全性も含め有効性に対する人への実験結果を厚生労働省に提出、審査をパスしなければならない。「血圧上昇を抑える」「コレステロールを下げる」といった効能を十分引き出すには、実験の前提になった摂取条件を守る必要がある。

例えば、味の素が昨年9月発売したコレステロールを下げる特長をもつトクホマヨネーズ「ピュアセレクト サラリア」。植物ステロールエステルと呼ぶ物質を使うことで同社の実験だと成人男性の場合、総コレステロール値が統計学的に有意に下がり、コレステロール値の高い人でも悪玉コレステロール値が9%低下した。

ただ、この実験の前提が1日大さじ1杯(15グラム)を継続して摂取するというもの。悪玉コレステロール値を9%下げるには、1カ月間毎日トクホマヨネーズを食べなければならないことになる。

大半のトクホにはパッケージに1日の摂取目安量が表示してある。これを守り、毎日使い続けることで効果が期待できると考えるのがよい。「体脂肪がつきにくい」「コレステロールが下がる」からといって熱量(カロリー)に差はない。うたい文句を誤解して食用油やマヨネーズを取りすぎてしまうとカロリーの過剰摂取につながるから気をつけよう。

厚生労働省研究班の調べによると、似た効果を持つトクホ2種類を組み合わせて摂取しても、体脂肪がつきにくい成分をもつ食用油と脂肪がつきにくいとうたったカテキン入り緑茶とでは、相乗効果が出ないことがわかった。過剰摂取しても健康上問題ない商品がほとんどだが、だからといってやたらと取ればいいものでもない。

神奈川県立保健福祉大の中村丁次教授は「トクホは、食生活が乱れ、現在の状態を放っておくと病気になってしまう人たちが取るべきもの。糖尿病や高血圧症の人たちが病院にいくのが嫌だからといって薬の代用にするものではない」と警告する。最近は錠剤タイプも登場するが、薬とはまったく違うものと認識しておくことが大切。通院している人がどうしても摂取したい場合は、医師に相談するのが賢明だ。

国立健康・栄養研究所は4月からトクホの許可の根拠を製品別に詳しくまとめたデータベースをホームページ上で公開している。「肥満などに悩む人はカロリーの過剰摂取を控えるなど食生活を改善、トクホは正しい情報を理解して使ってほしい」と同研究所の梅垣敬三・健康影響評価研究室長は語る。



トクホの主な種類

◆おなかの調子を整える
飲料、調味酢、スープ、クッキー、ヨーグルト、即席めん、シリアル、ゼリーなど

◆血圧が高めの人に
飲料、マヨネーズ、豆乳、即席めん、食用油など

◆血糖値が気になる人に
飲料、スープ、緑茶、みそ汁、ご飯など

◆虫歯の原因になりにくい
あめ、チョコレート、ガムなど

◆歯を丈夫に健康にするために
ガムなど

◆骨の健康が気になる人に
納豆、飲料など

◆体脂肪がつきにくい
食用油


トクホはパッケージ表示をヨクチェックしよう!

★特定保健用食品
商品名:○○   
名称:○○加工食品

★原材料名:○○、△△、□□…

★内容量:○○g

★許可表示内容:○○は△△△を含んでいるため、食生活で補足がちな食物繊維が手軽にとれお通じを良好に保つことに役立ちます

★1日あたりの摂取目安量:1日あたり2袋を目安にお召し上がりください

★摂取方法:水に溶かしてお召し上がりください

★摂取上の注意事項:多量にとり過ぎるとおなかがゆるくなることがあります。1日の摂取量を守ってください






2005.7.24 日本経済新聞