古来「ナンバ式」の動き導入
筋肉・関節負担を軽く


陸上の末続慎吾の走法やプロ野球の桑田真澄の投法などで世に知られるようになった「ナンバ」。体の反動を利用する西洋式の動きとは異なる、この日本古来の動きを応用した健康法が注目を集めている。「ねじらない、踏ん張らない、うねらない」が大原則。体と対話しながら進める「ナンバ式骨体操」は腰痛や肩こりなどの改善に効果があるという。

都内のカルチャーセンターで行われている「ナンバ式骨体操」の教室をのぞいた。参加者は老若男女を問わない。「無理はしないで気持ちがいい感じをつかんでください」。インストラクターの説明に合わせて参加者はゆっくりと体を動かす。基本の骨体操のあとはナンバ歩きにナンバ走りのレッスンも。

「ずっと腰痛、肩こりに悩まされていました。自分の体と真剣に向き合ったのは初めて。不思議と痛みがなくなりました」と野田寿美さん(49)は笑顔をみせる。またナンバ走りを習得するため教室に参加したという萩原明さん(50)は「ランニングを始めて1年間は故障ばかり。おぼれる者はわらをもつかむ思いで参加したが、無理をしなくてもパフォーマンスがあがりびっくり」と語る。

「ナンバ」といえば歩く際、右手と右足、左手と左足を同時に出すような体の使い方で表現される。ナンバの語源は正確には不明だが、かつての日本人はそのように動いたといわれ、明治維新後、西洋の軍隊の行進を母体にした左右を交互に出す歩行が法普及して衰退したとされる。

しかし歌舞伎や能、大相撲や武道など伝統文化の中では「ナンバ」は脈々と受け継がれてきた。近年、古武術研究家の甲野善紀さんはこの動きを整理し、「ねじらない、踏ん張らない、うねらない」と表現した。

かつて忍者や飛脚などはナンバ走りで現代人よりもはるかに長く速く走ることができた。その理由は省エネで体に負担をかけないためといわれる。実際、体をねじったり踏ん張ったりすると関節や内臓、筋肉に必要以上の負荷をかけ、けがや故障を生みやすい。スポーツ界でも末続をはじめ、バスケットのM・ジョーダンやプロ野球のイチロー、サッカーの中田英寿ら選手寿命が長いトップアスリートたちにはナンバの動きが随所にみられるといわれる。

甲野さんと親交が厚い桐朋学園大学の矢野龍彦教授らが考案したのが「ナンバ式骨体操」だ。楽器を演奏中、体をねじったりしてけんしょう炎や背中の張り、腰痛など様々な故障を起こす学生を目の当たりにしていたことから、一番負荷がかからない動きを追求、ナンバの動きを取り入れ、筋肉に頼らず、「骨を動かす」という発想に切り替えたという。

最大の特徴は「ねじらず」「力まず」。普通のトレーニングでは鍛えたい筋肉を意識して力を入れたり引っ張るが、「ナンバ式骨体操」は頭蓋骨(ずがいこつ)や胸郭、骨盤などをボックスにみたててスライドさせながら平行四辺形をつぶすように動かす。そうすると筋肉や関節に負担が集中しない。故障で苦しんでいる学生に体育授業で試したところ、大きな改善がみられたという。

「骨体操」と名付けたのは従来の筋肉信仰、ウエートトレーニング重視への対抗。「体を合理的に動かすには体が楽になる動きを探せばいいのであって、無理ややりすぎはよくない」と矢野教授。骨体操をベースにナンバ歩きを進化させ、音楽をつけた「ナンバビクス」も考案した。

奈良先先端科学技術大学院大学の上田淳助手(マサチューセッツ工科大客員研究員)はロボット工学の立場からナンバ歩きを解析した結果、「体をひねる動作でバランスをとる代わりに股(こ)関節を使っており、腰や背骨の負担を軽減している」と指摘、「古武術には故障を回避し、よりスムーズな動きを実現する知恵がある。ナンバ式骨体操もそれが生かされているのだろう」と話している。
(編集委員 芦田富雄)


マナンバ式骨体操3ポーズ

(1)骨盤左右方向転換
ひざをゆるめて身体を沈めながらつま先を軸にかかとを左右に回す。肩と腰は正面を向けたまま。「骨盤ボックス」を変形させ身体のバランスを整える

(2)胸部側湾調整
足は肩幅に。つま先は若干外に。両手を組み上体を左右に倒すが、その際、腰も同方向に突き出すようにする。「く」の字ではなく、「S」の字にするのが重要

(3)脚部ひざをたたむ
手をひざにあて、ゆっくりしゃがむ。つま先は斜め前方を向いたままにする。ひざを「たたむ」ことで全身のゆがみをとる



2005.10.15 日本経済新聞