細かい動作も嫌がらず
認知症予防に期待

手や指先の動きは、言語や思考といった脳の高次機能を担う大脳皮質に影響を与えているといわれている。年を取ると細かい動作を敬遠しがちだが、これだと脳への刺激も減ってくる。普段あまり使わない指先を意識して動かすようにすると、認知症の予防などにつながりそうだ。

「肩こりやめまいが軽くなった」。千葉県に住む主婦のAさん(71)は、健康教室に通い始めてから体調がだいぶよくなったと話す。イライラや気がめいるといった不定愁訴で病院を訪れたものの医師の診断は「特に問題ない」。近所の健康教室で、指先を中心に腕や足なども動かす運動を始めてみたところ、肩こりなどの症状も緩和した。

指先運動は指を順番に折り曲げたり伸ばしたり、指同士をくっつけたり離したりする。いつでもどこでも気楽に実践でき、脳への刺激が期待できる。指先運動教室を主宰し、Aさんを指導するウォルナッツ・健康生活研究所(東京・板橋)の堤喜久雄所長は「脳を若返らすというよりは、むしろ年を取っても衰えないよう現状維持するのが狙い」と言う。

初心者でも簡単に覚えられる基礎的な指体操を、堤所長に紹介してもらった。

「指先合わせ」は左右それぞれの手で、親指と他の指とを順番に合せていく。合わせる部分の指の腹だけでなくつめに変えたり、2−3回ずつ合わせて次の指に移るなど、バリエーションを工夫するのもよい。慣れてきたら、左右で合わせる指をわざと1テンポずらしてやるのも効果的だ。

「指曲げ」も動きは簡単。1本ずつしっかり曲げ伸ばしする。波曲げは、左手の親指から、人さし指、中指と順番に曲げていき、小指まで到達すると、次に右手に移って左手とは逆の順番で小指から指を曲げていく。10本の指すべてを曲げ終えたら、今度は逆に右手の親指から順番に伸ばしていく。

また、数を数えるときの曲げ方を応用、左手の親指だけを先にまず曲げておき、「いち」「に」「さん」と声を出しながら左右非対称に指を曲げ伸ばしすると「仕事前の頭の準備体操になる」(堤所長)。

指先と同時に腕や足を動かすと、全身の血行促進効果も。例えば「グーパー体操」。手足同時に指を伸ばすのはたやすいが、手を伸ばす際に足を曲げたり、左がパーなら右はグーなど、手足の左右でそれぞれ別の形を作ろうとするととたんに難しい。ももの引き上げやひじの曲げ伸ばしを組み合わせると、難易度はさらに上がる。

どの体操も秒針の動きに合わせてリズミカルに30秒から1分間、繰り返すのが基本。最初は難しい動きもあるが、続けていれば次第に慣れてくる。

まずは簡単にできる運動から始めて、毎日継続させるのがポイント。うまくできなくてもあせらず無理しない。ゲーム感覚で挑戦するのがよい。

脳機能などに詳しい久保田競・日本福祉大学教授は「単に反復するのではなく、指の動きを頭のなかで描きながら動かしていくと、脳への刺激になる」と指摘する。
速読教室などを開く医師の栗田昌裕氏は、指回し体操の優れた効果をアピールする。

指回し体操は、胸の前で親指同士など対になった左右の指を合わせ、ドームのような形を崩さないように対になった左右1本ずつの指を回転させる運動。指同士が接触しないよう素早く何回もできるよう訓練すると、「1分間にこなせる1ケタの足し算の数が増えるなど頭の回転が速くなる」(栗田氏)。親指から順番に各指とも30秒(20回が目安)ずつ回すとよい。

一方、脳梗塞(こうそく)の予防と指の体操とを結び付けたのが都内でクリニックを開業する眞田祥一医師。血流を邪魔する血栓(血のかたまり)がとても小さく自覚症状のない脳梗塞を「隠れ脳梗塞」と呼ぶが、最新の画像診断装置を使うと、40代で約3割、50代で約5割、60代で約8割に、この隠れ脳梗塞が見つかるという。これを重度の脳梗塞などが起こる予兆と見なし、対策を訴える。

例えば、両腕を肩の高さで真っすぐ突き出し、手のひらは下に向けたまま指を曲げ伸ばししてグーとパーを素早く繰り返す。また、手のひらを正面の壁につけるような状態で腕を前に突き出し、直径10センチの円を描くようにして肩を起点に両腕をぐるぐる回す。眞田氏は「脳を活性化し血管の弾力性を高めて、脳梗塞の発症予防につなげたい」と話す。
(長谷川章)



指合わせ
親指の指先と人さし指の指先とを合わせる
親指と中指、親指と薬指など合わせる指を順番に変えていく

応用例
右手は親指と人さし指、左手は親指と小指から始めて、合わせる指を1つずつずらしていく

手足のグーパー
リズミカルに30秒−1分間繰り返すのがポイント
いすに座り両手をにぎる。同時にかかとをつけたまま足の先を床から少し上げ足の指先にも力を入れてしっかり握る
両手の指先を開く。同時に足の指先の力を抜き、足の裏を床に戻す

応用例
右手と右足を握ってグーに、同時に左手と左足は開いてパーに。右側をパーにすると同時に左側をグーにする




2005.11.13 日本経済新聞