年だから で片付けないで
睡眠しっかり ストレスためず


「やる気がない」「どうも不快だ」「やたらと汗が出る」――。50代、60代でこうした更年期症状を訴える男性が増えている。男性ホルモンの低下と過度なストレスが原因で起こることが多い。男性の更年期は女性に比べてまだまだなじみが薄いが、「年をとってきたなあ」で片づけずに、きちんと備えることが大切だ。

「60歳を過ぎたころから、感情の起伏が激しく、怒りっぽくなった」。こう嘆くのは大手商社を定年退職した広瀬誠さん(仮名、63)。昔のように根気が続かなくなり、何でもすぐにあきらめることが多くなった。大好きだったゴルフにも興味がなくなった。

「ひょっとすると男性更年期では……」。妻の助言もあり総合病院の専門外来に。問診では「寝つきが悪く、排尿の回数も増えた。体がほてり急に汗をかくこともある」と訴えた。血液検査で男性ホルモンが低下していることが判明、男性更年期と診断された。

帝京大学医学部の堀江重郎教授は「退職という大きな環境変化がストレスになり、男性更年期になった典型例」と説明する。広瀬さんは男性ホルモンの注射と漢方薬「補中益気湯」の服用で2カ月ほどで症状が改善できたが、「更年期を訴えて病院に来る人はまだ少ない」(堀江主任教授)。いろいろな兆候があらわれても老化に伴う衰えと我慢する人が多いためだ。

ホルモン低下
男性更年期は一体、どういうものなのか。

正式な病名は「性腺機能低下症」。男性ホルモンの代表、遊離型テストステロンの分泌量は30代から下がってくるが、このホルモン低下が発症に大きく関係していることが最近の研究でわかってきた。

男性ホルモンは筋肉を増やす働きだけでなく、認知機能や血管の柔らかさ、脂質代謝や性機能などに広く関係している。分泌量が減ってくると、集中力や意欲が低下し物覚えも悪くなってくる。筋力も弱くなり日常生活の行動範囲も狭まる。排尿機能や男性機能も衰える。

米国の研究によると、男性ホルモンはストレスの影響を受けると分泌量が大きく減少するという。神経質でストレスに弱い人ほど男性更年期になりやすい。防ぐには「とにかくリラックスして、ストレスをため込まないこと」と札幌医科大学の熊本悦明名誉教授は指摘する。

睡眠はたっぷりとる。1日に7時間以上眠ると、男性ホルモンの低下を抑えることができるといわれる。ジョギングやウオーキングなど適度な運動をこなせばストレス解消になる。ゴルフをするときもスコアを気にせずリラックスして楽しもう。

音楽を聴いたり温泉に入ったりすると、自律神経のうち副交感神経を刺激することになりリラックスできる。気功や太極拳、ヨガ、座禅などで呼吸を整えるのもとてもよい。

食事は腹八分目にする。カロリー過多は男性ホルモンの低下を招くだけだ。たんぱく質をたくさん取る。オリーブオイルに多い不飽和脂肪酸もよい。アボカドや山芋、高麗ニンジンなどは男性ホルモンの分泌を増やす効果があるとされる。

40代でも症状
男性ホルモンの低下は個人差が大きい。80歳でも20歳並みの高い分泌量の人もいる。生活習慣に気を配っても、ある年齢に到達すると更年期の症状はだれにでもやってくる。

泌尿器科中心に男性更年期外来を看板にかかげる病院も増えた。こうした専門外来や一部の泌尿器科では、血中にどの程度男性ホルモンがあるか検査してもらえる。男性更年期と診断されると、テストステロンの補充療法や漢方による治療が受けられる。

ストレス社会のせいか、最近は40代でも男性更年期にあたる人がいるという。こうした人たちの初期症状がぼっ起不全(ED)。男性ホルモン量が著しく低下している可能性がある。「年だから元気がなくなった」と決めつけずに、早め早めに手を打つことが、更年期の症状をやわらげるのにつながっていく。
(合田義孝)


男性更年期のチェックリスト

(1)体調が優れず、気難しくなりがち
(2)不眠に悩んでいる
(3)不安感、寂しく感じる
(4)くよくよしやすく、気分が沈みがち
(5)ほてり・のぼせ・多汗がある
(6)動悸・息切れ・息苦しいことがある
(7)めまい・吐き気がある
(8)疲れやすい
(9)腰痛・手足の関節の痛み
(10)頭痛・頭が重い・肩こりがある
(11)手足がこわばる
(12)手足がしびれたりピリピリする
(13)早朝勃起が少なくなる
(注)設問は(1)ほとんどない(2)ややある(3)かなりある(4)特につらいまたは非常に強いで判断し、(3)以上の評価が2個以上ある場合は、男性更年期を扱う専門外来を受診した方がよい

(熊本悦明・札幌医科大学名誉教授の資料をもとに作成)


2006.4.30 日本経済新聞