保温・保湿に効果  香りでリラックスも

冬はゆったりと体を温め、夏はさっぱり爽快(そうかい)感を−そうした風呂(ふろ)好きの日本人の「友だち」とも言えるのが入浴剤。保温や保湿といった効果が確かめられている。近年は、リラックス感を高める香りを強調したものや、肌に良いことをうたったスキンケアタイプの人気が高いという。

香りを楽しんだり肌の手入れをしたりといった、どちらかと言えば化粧品としての意味合いが強い欧米と違って、日本では入浴剤に対して何らかの“効能”を期待することが多い。その中で最も多いのが保温効果だ。また、ひびやあかぎれ、あせも、肩の凝り、荒れ性といった症状を改善する効果がある。

入浴剤は含んでいる成分によって無機塩類系、炭酸ガス(二酸化炭素)系、薬用植物系、酵素系、清涼系、スキンケア系に分けられる。無機塩類系は昔から日本人になじみの深い温泉の、また薬用植物系は薬湯(くすり湯)の系統をそれぞれ引くものと考えて良いだろう。

各種入浴剤と主な成分、主な効果
分類
主な成分
主な効果
無機塩類系

硫酸ナトリウム、
硫酸マグネシウム、
炭酸水素ナトリウムなど

保温、皮膚清浄など
炭酸ガス系
炭酸水素ナトリウム、
コハク酸、フマル酸など
保温、疲労回復など
薬用植物系

各種製薬、製薬エキスなど

保温、血行促進など
酵素系
無機塩類、たんぱく質分解酵素など 保温、皮膚清浄など
清涼系
炭酸水素ナトリウム、
メントールなど
保温、入浴後のさっぱり感など
スキンケア系
コレステリルエステル、
米胚芽油、ホホバ油、
ミネラル油など
保温、保湿など

このうち無機塩類系は最もよく使われているタイプだ。硫酸ナトリウム(芒硝=ぼうしょう)、硫酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウムなどを主成分にしており、これらの塩類が皮膚の表面のたんぱく質と結合して皮膜を作り、これが熱の放散を防ぐ働きをする。

サーモグラフという体表面の温度分布を見る装置で調べると、さらの湯と入浴剤入りの風呂では、入浴直後はそれほど差はないが、入浴後20−30分後ではお湯につかっていた胸や腕の体温に大きな差が出ている。いわば、湯冷めがしにくいわけだ。

芒硝には、皮下組織の活性化作用などもあり、あせもやひび、あかぎれなどの防止にも役立つという。

入浴剤メーカー、ツムラの商品開発研究所が鹿児島大学医学部のグループと行った研究では、芒硝を入れた風呂は血管拡張作用が高く、血圧を下げるほか、皮膚の血流量を増やし、脳の酸素供給を高める結果が得られたという。

こうしたスタンダードな入浴剤に加えて、最近はひと味違ったものも登場している。女性向けに花の香りを強調し、疲れを取り、リラックス感をかもすアロマテラピー(芳香治療)効果をうたったものや、深い海の底からくみ上げた深層水を使ったものが出ている。ハッカを多めに配合し、温浴感とひんやり感の両方が楽しめるという入浴剤もある。

また、近年増加しているのがスキンケア系の入浴剤。入浴剤の主成分の1つである重曹にはせっけんと同様に肌の汚れを落とし、皮膚の確執の保湿力を高める作用がある。スキンケア系はさまざまな保湿成分を加えて肌がかさかさになることなどを防止する。

日本の水は軟水であり、マグネシウムやカルシウムなどのイオンが少ないため、皮膚の保湿成分を落とす作用が強いといわれる。また、最近の水道水は水質改善のためか塩素を多めに使用しており、これは肌を荒らす一因。スキンケア系がもてはやされるのも、こうしたことが背景にある。

保温、保湿、それに一部の皮膚症状に効果がある入浴剤だが、一方ではイメージ商品の色彩もある。風呂が1つの家族ではなかなか自分のし好にあったものは使えないが、ひとり暮らしの人は、自分の好みにあった入浴剤を選び、香りや色を楽しんでみてもいいだろう。(編集委員 中村雅美)

(2000.9.23日本経済新聞)