脚に血をためぬ工夫を
コップ2杯強の水を飲む


若い女性で低血圧に悩む人は多い。高血圧のように深刻な病気を招く心配は少ないが、体がだるく、朝起きられない、気力がわかない、など日常生活を送る上で悪影響があるのも事実だ。食事や日常生活を工夫すれば不快な症状を減らすことは可能だ。

出版社勤務のSさん(28)が内科を受診したきっかけは、2年前、立ちくらみで駅のホームから転落したことだった。朝起きるのが苦手で、午前中は頭がぼーっとしていることが悩みだった、夜が遅い仕事のためと我慢していたが「死ぬかもしれないと思うと放っておけなかった」。

血圧を測ると、上(収縮期血圧)が90前後だった。ふらつきやめまい、倦怠(けんたい)感など症状もあった。診察した東京女子医科大学東医療センター(東京都荒川区)の渡辺尚彦講師は「典型的な低血圧症」と語る。

結局Sさんは、朝の入浴や早歩きなど軽い運動に加え、足を圧迫する弾性ストッキングで生活習慣の見直しに取り組んだ。立ちくらみが出そうになったときは、しゃがんでやり過ごすなどの対策で、ふらつきやめまいをだいぶ克服できるようになった。

10−30代の若い女性の5人に1人は低血圧といわれ、朝起きられないなど悩みを抱える人は少なくない。だが、「体質だとあきらめている人がほとんどだ」と渡辺講師は説明する。症状はめまいや立ちくらみのほか、頭が重い、肩が凝る、耳鳴り、脱力感、頭痛、食欲不振、冷え性など数え切れない。

一般に上の血圧が100以下の場合を低血圧といい、めまいなどの症状を伴うものが低血圧症として治療対象になる。多くは原因のない体質性の低血圧である。

こうした低血圧の原因は不明だが、「自律神経の働きが下がっていることが関係する」と血圧の調節機構に詳しい長澤医院(東京都渋谷区)の長澤紘一院長は指摘する。夜寝るとき働く副交感神経が朝になっても強く働き目覚めが悪くなる。一方で血圧を高める交感神経の働きが弱い。

この自律神経のスイッチの切り替えをよくすることが症状改善につながる。低血圧は宵っ張りの朝寝坊の人に多いが、夜は興奮することを減らして10分でも早く就寝し、朝は早起きが対策の第一歩だ。朝、シャワーを浴び、朝食をとることで交感神経の働きが高まり症状が緩和される。

対策として「定期的に500ミリリットル(コップ2杯強)の水を飲むと血圧が上がる」とアドバイスするのは血圧に詳しい東京女子医大東医療センターの大塚邦明教授。飲んで5分後から血圧が上がり、30分で最大となる。効果は90分持続し、上の血圧が10−40上昇する。特に就寝中は汗を多量にかくため、朝に水を飲むと効果が高い。渡辺講師も「チーズ類、特にチェダーチーズを1日50グラム食べると効果がある」と話す。血圧を上げるホルモンのもとになる物質が含まれるためだ。

さらに血液の循環をよくするため、早歩きやジョギング、体操など軽い運動を1日10分でもするとよい。特に脚の筋肉を鍛えると、脚の末梢(まっしょう)血管に血液がたまり血圧が下がってしまうことを防げる。下から脚を段階的に締め付ける弾性ストッキングでも、血液を脚にためず症状を緩和できる。朝ふらつく人は、寝た状態でストッキングをはいてから立ち上がると、立ちくらみが起きにくい。逆に腰を強く締め付けるコルセットなどは避ける。

めまいや立ちくらみが起きてしまったときは、しゃがむことで血液を上半身に行きやすくする。座っている時は脚を組めば血管が圧迫され血圧低下を防げる。風呂上りは血圧が下がりやすいため、脚にお湯と水を交互にかけて血管を収縮させるとよい。

立ち上がったときに上の血圧が20下がる起立性低血圧の場合は、これら対策に加え、頭を下げるようにしながらゆっくり立ち上がる習慣をつけるといい。食後にめまいや立ちくらみが起きる食後低血圧なら「カフェインの入った緑茶や紅茶、コーヒーを飲むといい」(大塚教授)。

生活習慣の改善で症状がよくならないなら薬物治療をすることになる。血管収縮を助ける薬や血液循環を増す薬を使う。もちろん腎臓などに重い病気が隠れていることもあるので、一度循環器内科を受診してもいいだろう。


低血圧の不快な症状を緩和する方法

日常生活における対策

●定期的に500ミリリットル(コップ2杯強)の水を飲む
●特に夜は汗をかくため、朝は水を飲むようにする
●ジョギングや体操など1日10分間運動をする
●チーズを1日50グラム食べる
●弾性ストッキングをはく
●朝早く起きて、朝食を取るようにする

立ちくらみやめまいへの対策
●頭を低くしてゆっくり立ち上がる
●立ちくらみが起きた場合はしゃがむ
食後低血圧の人の対策
●食後に緑茶や紅茶、コーヒーを飲む



2007.2.10 日本経済新聞