ここ20年で人間の体内時計に関する研究が大きく進展した。

体内時計は脳の奥の視床下部にある。約24時間のリズムを発振し、この情報を体全体に伝え、昼の活動に適した状態と夜の休息に適した状態に切り替える役割を担う。網膜ともつながっていて、目から入った光の情報は視覚情報処理とは別の神経経路で体内時計に直接伝達される。無意識に昼夜の光環境に関する情報は体内時計に伝わっている。

太陽光に匹敵する高照度光を浴びると、時刻に応じて体内時計のリズムが変化する。早朝に昼間の太陽のような強い光を浴びると体内時計のリズムが早まり、夜に眠くなる時刻が早くなる。逆に、夕から夜の時間帯に高照度光を浴びると体内時計のリズムが遅れ、眠くなる時刻が遅くなる。こうした反応は、もともと季節による日の出や日の入りの時刻の変化にあわせて睡眠のタイミングや長さを整えるものだ。現代社会では時差がある海外への飛行後に体を順応させるのに役立っている。

体内時計のリズムを変化させるには2500ルクス以上の強さの光がいる。ナイターのマウンドの明るさや晴れた日の窓近くの明るさに匹敵する。ちなみに人工照明の照度は、コンビにやスーパーマーケットの食品売り場で1000−1500ルクス、オフィスが500−1000ルクス、家庭の居間が200−300ルクスだ。

夜間勤務が続く場合、体内時計を上手にコントロールし体のリズムを昼夜逆転させれば、夜勤中の眠気や夜勤後の睡眠時間を軽減できる。

夜間勤務中は日中の太陽光に匹敵する高照度光照射装置を使い部屋を明るくして体内時計に昼だと錯覚させる。夜勤が終わる時刻にかけて徐々に夕方のように光を弱め朝から日中は暗くして過ごす。

体内時計がこうした人工的な明暗周期に同調し、夜勤中の体が昼のコンディションに、夜勤後の朝からの時間帯の体が夜のコンディションになり、昼間でもぐっすり眠れる。夜勤が続く場合は、人工的な光で睡眠と目覚めをコントロールすることができる。

(日本大学医学部精神医学講座教授  内山 真)

2007.3.4 日本経済新聞