活性酸素という言葉を耳にしたことがあるだろうか。体によさそうな言葉の響きだが、人間の体内では「動脈硬化など生活習慣病の原因になる」「シミのもとになる」といった悪い影響のほうが多いという。激しい運動や紫外線、ストレスなど、活性酸素の発生原因は日常生活のいたるところにある。今回はとくに運動との関係で、活性酸素への対処方法を探ってみた。

適度な運動で抗酸化力
ビタミンCやEの摂取を

「活性酸素が人体に幅広く悪影響を及ぼすことが研究でわかってきた。老化を早めるだけでなく、がんや動脈硬化など生活習慣病の引き金になっている」と指摘するのは、お茶の水女子大学の近藤和雄教授だ。

生活習慣病の引き金

活性酸素とは、体内に取り込まれた酸素の一部が他の物質と反応しやすい状態に変化したもの。活性酸素が人体に及ぼすものは、単純にいうと細胞を酸化させる働きだ。

例えば、血管の壁が厚く硬くなる動脈硬化の発生は、悪玉コレステロールが深くかかわるが、実はコレステロールは活性酸素によって初めて真の「悪玉」となる。悪玉コレステロールが血管を狭くするほど膨れ上がるのは、活性酸素による酸化で変性するためだ。

近藤教授は「現代人は日常的に活性酸素の危険性にさらされている」と警鐘を鳴らす。喫煙や大気汚染、紫外線、ストレスによって活性酸素が生じるほか、運動によっても大量に発生するというのだ。「生活習慣病を予防するには日ごろの運動が必要」という一般的な常識との矛盾は、どう説明できるのだろうか。

東京医科大学の高波嘉一講師は「運動は体に悪いのか」を実際に調べた。中高年を対象に軽く汗ばむ程度の運動を週2回、30分させた。3ヶ月後に運動後の悪玉コレステロールなどの状態をみると、「酸化速度が落ち、抗酸化能力が平均10%上がったことが分かった。」

運動で活性酸素が発生したはずなのに、酸化速度は鈍った。高波講師は「活性酸素が作られるペースより、これを消す抗酸化という作用の高まりが上回った結果」とみる。このことから、適度な運動であれば抗酸化能力は高まることが推測できる。

急激な運動は有害

ただ、実験では、運動で抗酸化能力が上がらなかった人もいた。急に激しい運動をしたり、運動習慣のない人が急に運動を始めることは、好ましくない。「自分流ではなく、医師やトレーナーの指導をきちんと受けてから始めるべきだ」と高波講師は注意を喚起する。

抗酸化能力を高めるには、普段の食事から抗酸化物質を上手に取り込まなければならない。

抗酸化能力の高さで知られているのは、ビタミンCとEだ。これらは互いに補完しながら活性酸素をを撃退する働きがあるので、ビタミンCを多く含む小松菜、レモン、イチゴといった野菜、果物と一緒に、ビタミンEを含むごま油、大豆を取るのが有効といえる。

活性酸素が害を及ぼす仕組みの一例
(伊藤園の資料から作成)

日光の紫外線を浴びる
皮膚表面の水分が影響を受け
活性酸素が発生
皮膚を構成している脂肪酸が酸化
過酸化資質に変化
被害を最小限に食い止めるため
メラニン色素が出る
皮膚を構成している脂肪酸が酸化
過酸化資質に変化
シミができる



手軽な方法は緑茶や紅茶、ウーロン茶を飲むこと。なかでも緑茶に含まれるカテキンの抗酸化能力が高い。飲料メーカーの伊藤園によると「1日に茶わん10杯の緑茶を飲むのが理想的だが、3杯程度でも飲み続けるのがよい」そうだ。カテキン単体より、ビタミンC・Eと一緒に取ることで、抗酸化能力がさらに高まることもわかってきた。

赤ワインやココア、チョコレートに含まれるポリフェノールに含まれるポリフェノールも代表的な抗酸化物質として知られる。

日ごろの生活習慣から、活性酸素の発生を抑えることも大事だ。喫煙や大量の飲酒、紫外線の浴び過ぎは活性酸素を増やす原因になる。体の酸化を抑えることを目標に、食事や生活習慣を見直してみよう。

活性酸素

大気中の酸素よりも反応性が大きくなった過酸化水素などの酸素種を指す。他の物質の電子を奪って酸化させる力が強力なのが特徴。体内には余分な活性酸素を消す抗酸化力が備わっているが、過剰に発生した活性酸素は皮膚や血管内で細胞を破壊し、がんや動脈硬化など様々な病気の原因になる。


(2000.9.23日本経済新聞)