耳を傾ければ聞こえだす
月経中は極力飲まず
健康でも2合までに
ついら時対症療法を

酒席の重なる季節。つらい二日酔いに悩まされている人も多いだろう。これさえなければ、と思いがちだが意外にもこの二日酔い、体のバロメーターにもなる。体が発する警報に耳を傾けることが必要だ。

「あんなに飲まなければ良かった」。東京都の会社員、山田優佳さん(仮名、35)は二日酔いで痛む頭を押さえつつ、飲んだことを後悔した。久しぶりに会った女友達とシャンパンで乾杯し、カクテルとグラスワイン、さらに2人で赤ワインを1本あけ、終電で帰宅したことは覚えている。話に夢中で「つい飲み過ぎた」。

二日酔いになるかどうかは体調と飲酒量による。日本アルコール・薬物医学会理事で慶応大学看護医療学部教授の加藤真三さんに聞いたところ、二日酔いとは、酒を飲み過ぎた翌日に起きる様々な臓器の不調を意味する。全身の倦怠(けんたい)感や吐き気、胃痛、頭痛など、症状のあらわれ方には個人差がある。

二日酔いさえなければ、との愚痴も聞こえるが「ある意味で二日酔いは歓迎すべきこと」と加藤さんは話す。「二日酔いは飲み過ぎていると体が発するイエローカード」(加藤さん)というわけだ。

実はアルコールを分解するのに要する時間は、人によってそれほど違わない。体重60キログラムの大人が日本酒1合(約180ミリリットル)の分解に必要な時間はおよそ3時間。酒に強い人は肝臓の働きもいいように思われがちだが、肝臓が強いわけではなく、アルコールからできるアセトアルデヒドを分解する酵素の働きがいいので酔いにくいだけ。この酵素が働かない人がいわゆる「飲めない人」だ。

日本酒1合に含まれるアルコールはビールなら大瓶1本、ワインならグラス2杯、ウイスキーはシングル2杯に当たる。ビール1本と日本酒3合(約540ミリリットル)飲めばアルコールが抜けるのに12時間近くかかる。

二日酔いになる場合は大抵、体調が悪かったり、酒席続きで寝不足だったりすることが多いという。二日酔いで気分が悪ければ「今晩の酒席はパスして早く帰ろう」「烏龍茶にしておこう」などと自然と体をいたわるような行動にでる。

女性の場合、生理周期も体調に影響しやすい。「月経中は基本的にアルコールは控えめに」と話すのはウイメンズクリニック南青山(東京都港区)の小杉好紀院長。特に赤ワインにはチラミン、ヒスタミンなど血管を拡張させる成分が含まれる。体調を悪くしたことがある人は「体を温める梅干し入り焼酎のお湯割りを」とすすめる。

自ら酒量を調整しないと肝臓に負担がかかりすぎてしまう。文字通り肝に銘じて飲み過ぎを反省するとしても、出社前の朝の二日酔いはすぐになんとかしたい。民間でよく言われる二日酔い対策について加藤さんにきいてみた。

シジミのみそ汁はミネラルの補給になるので全身の倦怠感の改善にはなるかもしれない。だが飲んだ翌朝に大量の水を飲んでも意味はない。尿と呼気から排出されるアルコール分は2−10%にすぎないためだ。同様にサウナに入って汗をかくというのも迷信。むしろサウナで寝込んでしまいかねず、危険。

最近は肝臓によいというウコンが入ったドリンク剤を飲むひとも多いが「肝臓そのものにウコンが本当にいいのかはまだ懐疑的」(加藤さん)だという。

有効なのは対症療法だ。頭が痛いなら脳の血管を収縮させる働きのあるカフェインを含むブラックコーヒーや、頭痛薬を飲む。胃痛や胃のむかつきには胃腸薬。ただし「飲み過ぎたら吐けばいい」という考え方は、胃などの内臓を傷つけやすいのでおすすめできない。

やはり予防策が大切だ。飲むときはつまみを食べながら飲む。分解する時間を逆算して早めに飲み始めて適量にとどめ、遅くとも午前零時前には切り上げる。適量には個人差があるが、厚生労働省の目安は「1日1合」。加藤さんは「ほろ酔い加減の2合までなら」と少し大目にみてくれた。飲んだ後は当然、二日酔い中もアルコールが残っている可能性がある。車の運転は厳禁であることを忘れずに。


二日酔い対策の5か条

1.飲むときはつまみを食べながら

2.酒量は日本酒で1日に1〜2合までが目安

3.午前0時には遅くとも切り上げる

4.気分をすっきりさせるならシャワー

5.頭痛や胃痛には適切な薬を


(注)個人差があるのであくまでも目安


2006.12.23 日本経済新聞