勤勉なビジネスマンの不可解な無断欠勤、優秀な学生の長期留年、明るい主婦の突然の家事放棄。これまでの神経症にはない「奇妙な心の病」が増えている。元名古屋大学医学部教授の笠原嘉氏は、それを「退却神経症」と名づけている。勇敢に戦っていた兵士が戦場から突如離れるというわけだ。

神経症(ノイローゼ)とは、人間が社会環境にうまく適応できず挫折したときにおこす心理的反応で、それが正常範囲を超えた場合を言う。ところが退却神経症は、これまでの分裂病、うつ病、ヒステリーなどどれでも説明がつかない。この本業からの理解しにくい突然の退却が、新たなタイプの神経症として注目されている。

やはり最大の治療法は、迷わず精神科医に相談することだという。他人に話すことで自分一人では見えない部分が見えることもあるからだ。

(2001.4.7 日本経済新聞)