陰性であっても、偽陰性が多い、早めの抗ウイルス薬?
JAMA誌から
H1N1による入院・死亡患者の34%は迅速診断で陰性
米カリフォルニア州での分析、入院リスクが最も高いのは乳児
新型インフルエンザ(2009 H1N1)に感染し、重症化した患者に関する情報が蓄積されつつある。米カリフォルニア州公衆衛生局のJanice K. Louie氏らは、同州内での2009 H1N1流行開始から16週間の入院または死亡例について分析し、季節性インフルエンザ感染の場合と比較した。この結果、2009 H1N1による入院リスクは生後2カ月までが最も高く、死亡リスクは50歳以上が最も高いこと、迅速診断で偽陰性となった患者が3人に1人の割合で存在することなどが明らかになった。詳細は、JAMA誌2009年11月4日号に報告された。
カリフォルニア州では、2009年4月23日から、2009 H1N1感染者の入院と死亡に関するサーベイランスを強化した。今回著者らは、それ以降8月11日までの16週間に報告された入院または死亡例について、臨床特性と疫学的特徴を分析し、季節性インフルエンザと比較した。
ケース(症例)の定義は、2009 H1N1感染が確定し、24時間以上入院または死亡した症例とした。感染の判定にはPCRを用い、PCR陽性、またはPCRで「A型インフルエンザ感染だが季節性のH1またはH3には分類できない亜型」と判定された場合を、2009 H1N1感染と判定した。
報告された患者の医療記録または死亡記録、剖検記録から情報を抽出した。
16週間に、カリフォルニア州では、2009 H1N1感染者の入院または死亡が1088件あった。年齢の中央値は27歳(0〜92歳)で、32%(344人)が18歳未満だった。
入院または死亡の発生率は、10万人当たり2.8。1歳未満の乳児では10万人当たり11.9で最も高く、70歳以上の高齢者では10万人当たり1.5で最も低かった。
入院率に限定すると、1歳未満が最も高かった。月齢で患者を層別化すると、生後1カ月児の入院率は10万人当たり35.8、生後2カ月児は21.1と非常に高く、生後3〜12カ月になると4.2〜12.6に低下した。
全死亡率は11%(1088人中118人)。死亡率が最も高かったのは、50歳以上の集団だった(50〜59歳が20%で最高)。18歳未満は7%(8人)と少なかった。
症状発現から死亡までの日数の中央値は12日(1〜88日)で、死因として最も多かったのはウイルス性肺炎と急性呼吸窮迫症候群だった。
患者全体の68%(741人)が、季節性インフルエンザ重症化の危険因子として知られている基礎疾患を有していた。危険因子保有率は、小児が60%、成人が72%。
インフルエンザ重症化の危険因子には含まれていない基礎疾患として、肥満(48%)、高血圧(16%)、脂質異常症(3%)、消化器疾患(10%)が見られた。
20歳以上でBMIを求めることができた268人のうち、58%(156人)が肥満(BMI 30以上)だった。そのうちの43%に相当する67人は、病的肥満(BMI 40以上)に分類された。肥満者156人のうち、66%(103人)は季節性インフルエンザ重症化の危険因子も持っていた。慢性肺疾患が65%(67人、うち41人は喘息)、心疾患が39%(40人)、免疫抑制状態にあった患者が27%(28人)、糖尿病患者は30%(31人)、腎疾患が12%(12人)など。
肥満だった156人中53人にはインフルエンザ重症化の危険因子は認められなかったが、それ以外の基礎疾患を1つ以上保有していた患者が13人いた。高血圧が9人(17%)、胃食道逆流症が4人(8%)、脂質異常症が2人(4%)など。
なお、妊婦が全体の10%を占めていた。
患者全体で、症状発現から入院までの日数の中央値は2日(0〜31日)、入院期間の中央値は4日(1〜74日)だった。
症状として最も多く見られたのは、発熱(89%)、咳(86%)、息切れ(56%)。6%の患者には、呼吸窮迫と低酸素症に起因する精神状態の変化が認められた。
胸部X線検査の結果が入手できた患者は833人。肺炎または呼吸窮迫症候群を示唆する浸潤影は66%(547人)に見られた。
入院時に迅速診断を受けた618人のうち、A型陽性判定を受けたのは66%(410人)。残る34%(208人)では偽陰性だった。迅速診断の感度は小児で高く、85%(213人中181人)が陽性だったが、成人では57%(405人中229人)に留まった。
ICU入院が必要だった患者は31%(1088人中340人)。情報が得られた297人のうち、機械的人工換気を必要としたのは65%(193人)だった。
なお、患者全体では25%に機械的人工換気が適用された。
884人について、投与された薬剤についての情報が得られた。79%(701人)に抗ウイルス薬が投与されていた。うち71%に当たる496人は季節性インフルエンザ重症化の危険因子を有していた。症状発現から48時間以内に投与が開始された患者は51%(357人)で、ほぼ半数だった。入院から抗ウイルス薬投与までに要した日数の平均は1.5日(0〜34日)だった。
抗菌薬投与を受けていなかった患者は21%(183人)いたが、細菌の二次感染が同定されたのは全体の4%(1088人中46人)のみだった。肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、グラム陰性桿菌、A群連鎖球菌の感染が多かった。
季節性インフルエンザによる入院と死亡のリスクが高いのは、64歳超の高齢者と5歳未満の小児、そして重症化の危険因子を保有する人々だ。ところが2009 H1N1では、入院患者の年齢の中央値は27歳で、入院リスクが最も高かったのは生後2カ月までの乳児だった。
生まれて間もない乳児は、ワクチン接種の対象にならない。著者らは、乳児に接触する人々に優先的にワクチン接種を行う必要があると考えている。
一方、50歳以上の集団は、入院率こそ低いものの死亡率が高かった。高齢者の一部が免疫を有する可能性が示されているが、50歳以上の感染者については慎重な観察を怠ってはならないと著者らは言う。
そして、迅速診断では偽陰性が多いことに注意すべきだ。ハイリスク患者の場合には判定が陰性でも監視を怠らず、可能な限り早く抗ウイルス薬を投与する必要がある、と著者らは述べている。
原題は「Factors Associated With Death or Hospitalization Due to Pandemic 2009 Influenza A(H1N1) Infection in California」、概要は、こちらで閲覧できる。
大西 淳子
|