大腸ガン、現代食生活と喫煙とストレスで主に発生、
時にたばこです。人工肛門つけたい?

内肛門括約筋部分切除術 増加傾向が続く大腸がん… 医療ナビ

◆内肛門括約筋部分切除術 増加傾向が続く大腸がん。肛門を残す治療法が注目されている。

 ◇「より広く切る」転換

 ◇生活の質重視 早・中期は再発率同じ

 東京都小平市の男性大学教授(63)は、海外の出張先でタール状の血便を見て、深刻な事態を初めて理解した。人間ドックで大腸がんを指摘され2カ月後の02年秋。帰国して病院へ直行し、「肛門(こうもん)の間近に中期のがんがあり、手術して人工肛門になる」と告げられた。「がんは冷静に受け止めたが、激務の中、人工肛門は困ると思った」と教授。勤め先の紹介で国立がんセンター中央病院(東京都)を訪ね、肛門を残す新しい手術「内(ない)肛門括約筋部分切除術」を受けた。

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 大腸がんは、進行がんでも7割以上が治るなど、治りやすいがんとされる。早期なら、内視鏡などを使って腫瘍(しゅよう)のある粘膜を切り取る手術で大部分が治る。しかし、肛門から15センチまでの直腸に腫瘍がある場合、手術後も後遺症に悩む患者が多い。

 特に、腫瘍とともに肛門も切除し、代わりに結腸の出口をおなかに開ける人工肛門は、取り付けた特別の袋に流れ込む便があふれないよう常に気をつけるなど、患者の負担感が強い。再発を避けつつ、同時に肛門機能を温存するよう、肛門を締めている内肛門括約筋をぎりぎりまで残して切る方法が内肛門括約筋部分切除術だ。同病院の赤須孝之・大腸外科医長によると、直腸から、この括約筋のうち最大でほぼ中央の歯状線付近まで切る。括約筋を半分失っても大丈夫だが、それ以上切ると失禁の可能性が出てくる。

 90年代から一部の病院で始まり、同病院は93年に導入。07年までに約120人を治療し、再発率は、進行がんではやや高く、化学・放射線治療の併用が必要。だが、早期や中期なら肛門を取る場合と同じだという。以前は転移を避けるため、「より広く切る」考え方が主流だったが、手術後の生活の質(QOL)を重視する新しい流れが導入の背景にある。検査機器の発達で、がんの範囲を正確に見極められるようになった効果も大きいという。ただ、肛門の機能が弱った高齢者では、人工肛門の方が良い場合もある。

 直腸周辺のリンパ節を切除する時に、一緒に自律神経が切られると、排尿・性機能障害が残ることも多い。これも、できるだけ神経を温存する手術が一般化しつつある。

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 教授は括約筋を半分切り、手術後3カ月間、縫い合わせた肛門が治るまで人工肛門をつけた。人工肛門の閉鎖後、初めは昼夜なく襲う便意で寝る間もなかったが、腸の機能が回復して7カ月後にほぼ1日1回に落ち着いた。括約筋部分切除を行う病院はまだ少ないが、赤須医師は「肛門は残せるものなら残したい。複雑だが特殊な手術ではなく、広まるに違いない」と訴える。【山田大輔】

 ◇女性のがんの1位に

 大腸がんは戦後、男女とも増加傾向をたどっている。厚生労働省によると、07年に大腸がん(結腸、直腸がん)で亡くなった人は全がんの12%の約4万2000人。特に女性の増加が顕著で03年から1位を占める。男性は肺、胃に次ぐ3位。人口10万人当たりの死亡率は50年前の7〜8倍で、動物性脂肪の過多など食事の欧米化や喫煙、運動不足、ストレスなどが原因とされる。


2009.4.21 記事提供 毎日新聞社