慢性閉塞性肺疾患(COPD)は全身の炎症

COPDは“全身の炎症”
COPDの依存症を考慮して拾い上げる

これまで「慢性閉塞性肺疾患(COPD)=肺の炎症」と考えられていたが、最近ではその考え方が変わってきた。COPDが肺にとどまらず、全身の炎症としてとらえられるようになってきたのだ。今年6月に日本呼吸器学会が発行したCOPDの診断・治療ガイドラインにも、糖尿病、骨粗鬆症、心血管疾患など肺以外の疾患がCOPDの「併存症」として明記され、COPDの診療において、全身の病態を考慮すべきことが盛り込まれた。息切れなどの肺にかかわる自覚症状がない患者を、非専門医が拾い上げ、治療することが求められるようになってきた。


 「COPDは単なる肺の炎症ではなく、全身の炎症だという認識が広まってきた」と話すのは、信州大医学部保健学科教授で呼吸器・感染症内科の藤本圭作氏だ。その理由として、COPD患者は別の疾患を併発している場合が多いことや、COPD患者の死亡原因が、呼吸不全などの肺に直接関わる疾患でなく、癌や脳血管障害などが多いことなどを挙げる。

 大規模臨床試験の結果も、COPDと併存症の関係を裏付けている。

 一つは、COPD治療薬である長時間作用型吸入抗コリン薬の有用性を検討したUPLIFT試験だ。同試験は、長時間作用型吸入抗コリン薬であるチオトロピウムの有効性を検討したプラセボ対照二重盲検比較試験で、日本を含む37カ国から登録された40歳以上のCOPD患者約6000人を、2003年から4年間にわたって追跡した。その結果、抗コリン薬を使用した患者では全死亡率が減少し、さらに心筋梗塞などの合併症のリスクも低下していた。

 もう一つの大規模試験、吸入ステロイド薬と長時間作用型β2刺激薬(LABA)の合剤の有効性について、約6000人の中等症以上のCOPD患者を対象に3年間検討したTORCH試験でも、UPLIFT試験と同様に、死亡率が減少し、合併症の発症リスクが低下する傾向が認められた。

 これらの結果は、COPDが心筋梗塞などの他の疾患を引き起こしており、COPDを治療すれば他の疾患の発症リスクも下がる可能性を示唆するものだ。

 また、COPDという疾患そのものによって、他の病態が悪化する可能性も指摘されている。「例えば骨粗鬆症であれば、COPDによる炎症が骨代謝に影響していると考えられている」と藤本氏は話す。そのメカニズムは明らかになっていないが、TNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインや、CRPが関係しているのではないかといわれている。

肝疾患の患者に多い“隠れCOPD”
  これら知見の蓄積を受けて、今年6月に日本呼吸器学会が発行した「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第3版」には、初めて「全身の併存疾患、合併疾患」という項目が設けられた。COPDの全身的影響として、表1のように多くの疾患が挙げられている。

表1 COPDの全身的影響

全身性炎症:炎症性サイトカインの上昇、CRPの上昇
栄養障害:脂肪量、除脂肪量の減少
骨格筋機能障害:筋量・筋力の低下
心・血管疾患:心筋梗塞、狭心症、脳血管障害
骨粗鬆症:脊椎圧迫骨折
抑うつ
糖尿病
睡眠障害
貧血

「実際、心房細動や心不全の患者が『息切れがひどい』として紹介されてきたので調べてみると、実は重症のCOPDだったというケースは少なくない。骨粗鬆症、心筋梗塞、糖尿病など、一見COPDとは無関係の疾患の患者の中に、COPDを併発している患者が隠れている可能性は高い」と藤本氏は話す。

 では、実際にCOPDはどのくらい見過ごされているのか。和歌山県立医大呼吸器・アレルギー内科准教授の南方良章氏は、COPDの疑いがなく、高血圧や糖尿病などの非呼吸器疾患の治療で診療所に通院している40歳以上の患者474人を対象に、COPDの罹患率を調査した。

 その結果、全体の約1割に当たる49人がCOPDに罹患していたことが分かった。疾患別に見ると、C型肝炎や脂肪肝など肝疾患の患者の罹患率が約2割と最も高かった(図1)。さらに喫煙量と年齢で結果を補正すると、罹患率は有意に高くなった。肝疾患の中で最もCOPDの併存率が高かったのは非アルコール性脂肪性肝疾患(21.4%)で、次いでアルコール性肝炎(20.0%)、C型肝炎(19.3%)だった。

疾患別に見たCOPDの罹患率
図1 疾患別に見たCOPDの罹患率(南方氏による)
非呼吸器疾患の治療で診療所に通院している40歳以上の患者474人を対象に、COPDの罹患率を調査したところ、最もCOPDの併存率が高かったのは肝疾患だった。



  COPD患者は一般に高齢者に多いとされるが、肝硬変や肝炎などの肝疾患の患者はそれほど高齢ではないという。「C型肝炎とCOPDの関係については、C型肝炎ウイルス(HCV)のキャリアは肺機能が低下するのが早い、インターフェロンによる治療が奏効してHCVが検出されなくなった人では肺機能の低下が抑えられた、などと報告されている(Chest 2003;123:596)。C型肝炎だけでなく、肝疾患の患者はCOPDを併発している可能性が高いことが分かった」と南方氏は話す。黒原由紀

 


2009.11.17提供 日経メディカル