CKDと脳心血管疾患との密接な関連を読み解く

楽木 宏実 先生
大阪大学大学院 老年・腎臓内科学教授

 CKD(慢性腎臓病)は、腎障害を基盤とする多彩な病態や症候を含む疾患概念として2002年に米国で提唱され、虚血性心疾患や脳血管障害の重大なリスクと考えられるようになりました。日本人に対する介入研究においても、糖尿病と並ぶ心血管疾患の高リスク因子であることがすでに確認されており、国内には1300万人以上のCKD患者が存在するとの報告もあります。そのため、近年は腎臓領域のみならず循環器領域においても重要な治療対象となっています。
 
  しかしながら、CKDが心血管疾患を好発させる背景やそのメカニズム(心腎連関)については、未だ不明な部分が多いのが現状です。心腎連関とそのリスク因子に関する研究に目覚しい成果を挙げられている研究者に、最新のデータを提示して戴き、心腎連関の機序と予防・治療の今後の方向性を議論したいと考えています。

 最初の発表者である名古屋市立大学の木村玄次郎氏は、高血圧と腎疾患に関する多数の成果を挙げている研究者として世界的に知られています。今回は、CKDに見られる夜間血圧の上昇の背景に食塩感受性状態が存在することを、臨床および生理学の視点から明らかにされます。さらに、食事の管理や利尿薬の活用、朝と夜間の血圧モニタリングの必要性などについても触れていただく予定です。CKDの進展と心血管イベント予防のための血圧管理における重要ポイントをお示しいただけるものと期待されます。

 腎臓学の専門医である川崎医科大学の柏原直樹氏は、腎に対する酸化ストレスの影響を精力的に研究されています。蛍光標識した様々なマーカーを用いて腎臓の病態を可視化する手法は、国内外で高く評価されています。このような方法を駆使して、腎臓病の病態としてのNOと活性酸素のバランスの乱れの重要性を示されています。また、腎障害および心血管イベントの予知因子とされているアルブミン尿にもフォーカスを当て、アルブミン尿の発症機序と、近年腎保護作用を持つ降圧薬としてCKD治療の主流となっているレニンアンジオテンシン(RAS)系阻害薬の働きを、NOと活性酸素のバランスおよび微量アルブミン尿の変化によって示されます。RAS系阻害薬の腎保護効果を裏付ける機序を明らかにするとともに、新たな治療に道を開く興味深いデータがご提示いただけるものと思います。

 滋賀医科大学の柏木厚典氏は、糖尿病の大血管障害および細小血管障害の基礎および臨床研究の第一人者です。今回は、特に2型糖尿病患者での血小板自然凝集に焦点を当てた研究成果を提示されます。

(歯周病菌は血小板内部に侵入して体内移動している)

 その過程で、血小板凝集と微量アルブミン尿が相関することを確認され、抗血小板薬が微量アルブミン尿や腎機能低下を抑制することを報告されます。そうした知見を基に、糖尿病患者における無症候性脳梗塞と、細小血管障害である腎症との密接な関連を示すデータを示され、大血管障害と最小血管障害の機序の共通性や特異性についても解説されると期待されます。

  広島大学の松本昌泰氏は、脳血管障害の著名な研究者で、脳血管障害とCKDとの関連について発表されます。かねてから、日本人には脳梗塞が多いことが指摘されていますが、脳卒中は予後が悪く、寝たきりを含め、ADLやQOLが著しく阻害される可能性が高い疾患です。同氏は広島におけるコホート研究によって、脳卒中の発症率が西欧に比べて20%以上高いことを確認されています。その一次予防、二次予防ともに、降圧治療がきわめて重要で、CKDにおいてはさらに厳格な降圧治療が必要であることを、高齢のCKD合併高血圧患者の管理も含めて解説されます。

  糖尿病やCKDでは、特有の脂質異常が認められます。昭和大学の平野勉氏は、内因性脂質異常の指標として注目されている血清中のアポ蛋白B48(ApoB48)濃度を指標として、CKD治療におけるスタチンや新規コレステロール阻害薬であるエゼチミブの有用性について検討されています。CKDの進行症例では、スタチンの心血管イベント抑制効果には否定的な見解も示されています。一方、エゼチミブはスタチンに代わる有望な治療薬となりうるのか、あるいは、スタチンとエゼチミブの併用は有用なのかなどの問に答える興味深いデータが示されるものと思います。

 CKDと心血管疾患は密接に関連しながら進行していくことは、疑いのない事実となっています。治療においては、CKDと心血管イベントのリスク因子に積極的に介入することが重要です。病態に基づく各リスク因子に対する介入を多角的に検証したいと考えています。

 歯周病との関連も疑われるのでは?

2010.2