女と男のナゾ


かつて多くの男性は、自分たちが女性よりも頭がよく、優れていると信じていた。自分たちが社会の高い地位に就いて指導するのは、当然のことと納得していた。そうなると、男性は、自分たちが信じたことが事実であると科学で証明したくなる。これが動機の1つとなって男女の脳の大きさを調べる研究が始まった。

脳の大きさを調べたのは、人は脳で考えるから、「大きい脳の持ち主ほど思考力に優れている」と思ったからである。さっそく研究を始めると、男性の脳が女性よりも重い、つまり大きいことが確認された。この報告で、男性優位論者はとても力づけられた。

脳の重さを見ていくと、新生児のときは女児の場合、平均で約280グラムで、男児は330グラムだ。男児の脳が50グラムほど女児よりも重い。

誕生から最初の2年間は、脳の大爆発といってもいい成長期で、新生児の脳の重さは一気に約3倍に増える。これ以後、脳の重さは成人するころまで緩やかに増え続ける。

成人女性の脳の重さは平均1240グラム、成人男性では約1340グラムで、男性の脳は女性より100グラム重い。男女とも年齢を重ねるにつれ、脳細胞が毎日少しずつ死滅していくので、脳はだんだん軽くなっていく。だが、男性の脳が女性より重いことは、ほぼ一生変わらない。

少し冷静に考えれば、脳の重さや大きさが、性能も示す指標になるという結論にはいたらないはずである。例えば、鯨の脳はヒトの脳の3倍の5000グラムもある。また、初期の超大型コンピューターより今のノートパソコンの性能はずっと高い。脳の重さと性能は無関係である。頭の良さを表現する目安の1つに知能テストがある。このテストでも男女間で、良しあしの差は見つかっていない。

米カリフォルニア大学のハイアー氏らは、数学の問題を男女学生に解いてもらい、そのときの脳の働きを陽電子断層撮影(PET)装置を用いて観察した。成績優秀な男子学生では、記憶を保つ働きのある脳の横の部分(側頭葉)と、思考力をつかさどる脳の前の部分(前頭葉)の活動が上がっていた。しかし、成績優秀な女子学生では、側頭葉と前頭葉の活動に大きな上昇は見られなかった。脳の使い方で男女が違うことがこの実験から分かった。

知能テストや数学テストの結果から指摘できることは次の2点である。1点目は、女性の脳は男性の脳よりもコンパクトだが、知能では男性と同等であるから、女性の脳は男性の脳よりも効率よく利用されている。2点目は、男性が脳の特定の部分を重点的に利用することで問題を解決するのと対照的に、女性は脳の特定の部分の利用に片寄らず、脳全体を活用している。

朝、面白くないことがあっても、男性は出勤して机に向かえば仕事に没頭し、その影響を引きずりにくい。一方、女性の場合は、意識の片隅に残って不快感を持続する傾向がある。男性は頭の切り替えがわりと容易であるが、女性はそうはいきにくい。この男女差も、男性の脳が特定の部分を利用しているのに対し、女性の脳が全体を使う違いから生じていると推測できる。

(サイエンスライター 生田哲)

(2001.8.12 日本経済新聞)