自然で安全な薬に期待

最近、サプリメントして、ギャバが人気だ。これを添加したチョコレートやココアは、心がほっとするとして話題になっている。

ギャバはガンマアミノ酪酸(GABA)というアミノ酸で、脳内では種々の興奮をやわらげる働きがある。長時間起きていたり睡眠不足気味になったりすると眠くなるのは、脳の奥の視床下部にあるGABA神経系が覚醒(かくせい)を保つ神経を抑えるからだ。
現在不眠症治療に使う睡眠薬は、脳内のベンゾジアゼピン受容体に作用、GABA神経系の働きを高めて眠りを誘う。

この受容体に作用すると睡眠誘発作用だけでなく、筋肉の弛緩(しかん)作用も生じる。弛緩作用は首や肩のこりをやわらげる点では良いが、夜間にトイレに起きた際に脱力のため力が入らず、よろける原因となる。高齢者では、転倒から骨折につながるため大きな問題だ。
数年前から筋弛緩作用を抑えた改良型のベンゾジアゼピン受容体作動薬が登場し、高齢者によく使われている。

ベンゾジアゼピン受容体を介さずに直接GABA神経系の働きを高め、催眠作用を発揮する新しい睡眠薬の開発も進んでいる。筋弛緩作用がほとんどなく、アルコールとの相互作用も少ない。安全性が極めて高く登場が期待される薬剤だ。

眠るメカニズムには、GABA神経系のほかに、もう1つ体内時計による調節がある。夜になったら、心身を休息に適した状態に切り替える仕組みで、メラトニンというホルモンが関与している。毎晩、一定時刻になると眠くなるのは、この働きによる。
この仕組みを増強してやれば、自然で安全な睡眠薬ができると考え、メラトニン受容体作動薬の開発が世界中で始まった。

日本企業がいち早くこれに成功し、米国では臨床で用いられるようになった。
夜になったら心身を、より自然に夜らしくする薬剤だ。夜が夜らしくなくなってきているわれわれには、良い薬のように思える。

(日本大学医学部精神医学講座教授  内山 真)


2007.3.25 日本経済新聞