韓国の料亭でコース料理(韓定食)をとると食事の前に粥(かゆ)がでてくる。よくでるのは松の実粥で、理由を聞くと「松の実に多く含まれている油が胃壁をアルコールの刺激から守り、なおかつ悪酔い、二日酔いの防止になるので、酒席の始まりに供する」との答え。さすが薬食同源の国だなと思った。

松の実粥とは香ばしく炒った松の実と、同量のよく洗った米に、水を2倍量くらい加えてミキサーにかけ、なめらかになるまですり混ぜる。これを土鍋に入れ、30分ぐらい弱火で煮て、塩少々で味をつけたものだ。

ポタージュのようにうまみの強いなめらかな口当たりと優しい味が後を引く。
松の実は古来から、不良長寿の食品とされる。栄養的にみると血中総コレステロールを下げる良質な脂肪と、老化や動脈硬化につながる活性酸素を消去するビタミンEをたくさん含んでいるのが特徴だ。この粥は約600年前の李朝時代、王の食卓に頻繁に出されていたようだ。

一方、日本人が好む韓国粥に、あわび粥がある。これも宮廷料理の1つで、今では韓国の粥専門店に行けば食べられる。あわびのうまみをあますところなく出した粥である。作り方は、栄養価の高いあわびのきも(肝)を裏ごしし、よく洗った米と一緒にごま油で炒め、たっぷりの水を加え40分ぐらい弱火で煮る。最後に薄くそぎぎりしたあわびを加え、塩、しょうゆ少々で味をつける。

韓国では単なる病人食としてでなく、ごちそうとして、バランスのとれた食事の中でよくとられる。

(新宿医院院長  新居 裕久)

2006.7.1 日本経済新聞