市販睡眠薬頼りすぎない

抗ヒスタミン薬一時的な不眠に
改善しないなら専門医の処方を

24時間社会が常態化して、昼夜逆転した生活をしている人もいる。「寝付きが悪い」「睡眠が足りない」などを理由にドラッグストアなどで手に入る市販の睡眠薬のお世話になる人もいるが、「安易に頼る前にちょっと考えてほしい」と専門家はいう。

首都圏を中心に調剤薬局を展開するトライアンドジャパン。自ら薬局の窓口に立った経験があり、睡眠薬に詳しい竹内尚子副社長によると、街の薬局で購入できる大衆薬の睡眠改善薬、OTC(オーバー・ザ・カウンター)睡眠薬は4タイプに分類できる。

@ブロムワレリル尿素入りの製剤A生薬配合剤B抗ヒスタミン薬Cその他――の4つで、このうちCには睡眠に効果があるといわれるアロマオイルやハーブなどのほか、時差ボケ改善を目的に主に米国で売られているメラトニンが含まれる。

尿素や生薬配合
ブロムワレリル尿素は睡眠作用があるが、これを求めていくつかの薬局を渡り歩く人が増えたことなどから、現在はそれ単独のOTC睡眠薬は市販されていない。ただ、睡眠薬としてではないが、ブロムワレリル尿素を含んだ解熱鎮痛薬や鎮静薬が薬局に店頭に並んでいる。

生薬、いわゆる和漢薬によるものも以前からある。ブクリョウやカンゾウなどからなる抑肝散を主体にした催眠鎮静薬が出ており、眠りが浅い、寝付きが悪いといった人がしばしば使っている。

ポイントはBの抗ヒスタミン薬。花粉症やじんましんなどを治す抗アレルギー薬や乗り物酔い止めの薬として以前から使用されてきた。催眠作用もあることから、いわば“副作用”を逆手にとった格好で睡眠薬に衣替えした。

2003年4月、エスエス製薬が抗ヒスタミン薬の1つ塩酸ジフェンヒドラミンを「ドリエル」の商品名で売り出したところ爆発的に売れた。今ではいくつかの後追い製品も出ている。需要が多いのは、それだけ眠れない人が多いということになる。また、眠れない、といった軽医療は自らの考えに基づいて薬で治療するというセルフメディケーションの考えと合致する。

ただ、名古屋工業大学保険センター長の粥川裕平教授は「夜勤明けなどで寝付きが悪い時に一時的に使うのなら構わないが、長期連用は意味がない」と指摘する。

「うつ」の疑いも
粥川さんは8月初め、NPO法人の名古屋臨床薬剤師研究会と共同で東海地区のドラッグストアの店長にドリエルについて調査した。「同じお客さんがほぼ定期的に購入する」という答えが52.8%あった。ドリエルなどには販売制限があり、1回の購入は1人1個。薬局やドラッグストアはこれを守っているが、定期的に来て求めていく人もおり、長期にわたって使うケースも多いと考えられる。

抗ヒスタミン作用による睡眠改善薬は慢性不眠や医師が不眠と診断した人には使えない。連用もいけないと添付文書にうたっている。不眠を根本的に治すことはできないからだ。「3日間OTC睡眠薬を使って、眠れないようなら専門医に相談した方がよい」と粥川さん。緑内障や前立腺肥大症など使ってはいけない人は医師などに要相談だ。

精神科医の立場から名古屋大学医学系研究科の尾崎紀夫教授は「不眠が続くようなら、まずうつを疑うこと」と語る。不眠の背後にはさまざまな病気が隠れている可能性がある。それらを見つけることも大切だ。

専門医に睡眠薬を処方してもらうと、薬の増減などの管理ができる。不眠症の治療には現在、短時間作用型や長時間作用型などさまざまなタイプのベンゾジアゼピン系の睡眠薬が主流だ。「こうした睡眠薬はたくさん服用しても自殺できない。そのくらい安全性は高い」と村崎三邦・北里大学名誉教授は言う。
(編集委員 中村雅美)


睡眠効果がある主なOTC薬


ブロムワレリル尿素系薬を含むもの

解熱鎮痛薬
・ナロンエース、グレランエース、サリドンエース、ヒロリン
鎮痛薬
・ウット、脳神経薬錠

生薬配合剤

催眠鎮静薬
・ナビゲート顆粒(かりゅう)、レスティ
鎮静薬
・イララック、バンセダンなど

抗ヒスタミン薬

睡眠薬
・ドリエル、ナイトール、ドリーネン、ネオディなど
乗り物酔い止め
・トラベルミン、センパア、マイトラベルなど
抗アレルギー薬
・アレルギール、レスタミンコーワなど

その他

・ハーブ(ラベンダー、カモミール、セージなど)

(注)抗ヒスタミン薬までの名前はいずれも商品名
(竹内尚子さんの資料より作成)


2007.8.26 日本経済新聞