(サプリメント大国アメリカ:下)安全なおざり、死亡例も



アメリカにはサプリメントを消費者の立場でチェックする第3者機関の研究施設や組織が各種あるけど、毎年、すごい量の新製品が出ている、また、定期で抜き打ちテストも大変だね。中にはこういうのもあるけど、日本よりは厳しい検査環境だ。

(サプリメント大国アメリカ:下)安全なおざり、死亡例も

「体にいいサプリメントと思っていたのに、まさかアレルギーを起こすものを飲んでいたなんて」。ニューヨークに住む会社員の日本人女性(37)は3年前の出来事を振り返る。

のどが痛くて風邪のような症状に悩まされ、「免疫力がつく」と人から聞いた「エキナセア」というハーブのサプリメントを飲み始めた。だが体調はむしろ悪くなり、だるさが抜けない。1カ月後、病院で受診し抗生物質を処方された。それでも治らない。

「何かアレルギーが関係しているかもしれない」という医師の言葉で、自分がブタクサにアレルギーがあることを思い出した。インターネットで調べたら、エキナセアがキク科の植物で、ブタクサもキク科であることを知った。すぐにやめたところ、症状が軽くなり体が楽になった。飲んだサプリにアレルギーの注意書きはなかったように思う。

「こちらではスーパーにサプリのコーナーがあって多くの商品が並び、身近で安い。健康になれそうという印象で、良さそうだったら試してみようと思えてきます」と話す。だが、この出来事以来、サプリをとるときは表示を見て原料を確かめるようにしているという。

安全性に問題のある製品も市場には出回っており、死亡事件が起きることもある。

昨年秋、米食品医薬品局(FDA)は「オキシエリートプロ(OxyElite Pro)」というサプリで肝障害が起きて死者も出ているとして使わないよう注意喚起し、製造者が回収をすると発表した。

減量や筋肉増強用。飲んだ人が肝障害や肝炎になる被害が50件以上報告され、1人が亡くなった。直接の原因はわかっていないが、製品には、これまで食品やサプリに使われていなかった植物の抽出成分が含まれていた。

米国のダイエタリーサプリメント健康教育法では、新しい成分を使う場合はFDAに通知し、安全性の根拠も提出するよう求めている。だが、メーカーはこの手続きを踏んでいなかった。

 「8万5千点以上のサプリが売られている中、問題があるものがあれば、我々はすぐ行動するようにしている」とFDAダイエタリーサプリメントプログラム部長のダニエル・ファブリカント博士。医療界からの報告などで情報を集めるほか、メーカーへの査察も行うという。

だが、FDAは販売前に製品の評価や認可をする権限はなく、製品を排除したり規制したりするためには、それが安全ではないことをFDAが証明しなくてはならないという制約もある。

1899年に創立された有力消費者団体「全米消費者連盟」の常任理事、サリー・グリーンベルグさんは「FDAは人が傷つかないと動かない」と監視の不十分さを批判する。FDAの権限を強化し、消費者にもっと多くの情報を提供する必要があるという。「いま消費者は店の棚に並んでいるものならば、安全だと思い込んでいます」

■企業任せの検査/出回る粗悪品

ニューヨーク郊外の「コンシューマーラボ・ドットコム」はサプリ品質評価機関。抜き打ちで市販品を購入して検査し、ラベル表記と内容物が合致しているか、不純物がないかなどをチェックする。

75点の総合ビタミンサプリを調べた昨年の結果では、40%近くの商品に、表記より含有量が多かったり少なかったり、体に吸収されにくい形態だったりと問題があった。減量効果で知られるオトギリソウ科の植物「ガルシニア」のサプリ調査では、有効成分の含有量がラベルに記載した量に達しない製品が11点中6点あった。実際には16〜81%しか入っていなかった。

米国では安全性と品質確保のため、サプリメーカーはFDAが定める製造工程管理(cGMP)という手法を用いて検査などを行うよう義務づけられている。ところが、コンシューマーラボ社長のトッド・クーパーマン博士は「実施する検査のレベルは企業側が決められる。簡単な検査だけなら、十分な成分が入っていない原料でもパスできる。cGMPの規定が緩いので、粗悪な商品が製造できるのです」と指摘する。重金属など不純物混入に対する規制が甘いのも問題だという。

市販の医薬品は効能表示と共に副作用などの警告表示もする。だが、サプリにはこうした表示の義務づけはない。「消費者は二つの商品を見比べて、警告がない方が安全だと受け取ってしまうかもしれません。例えばビタミンAやDも、とりすぎれば健康に悪影響があるのですが」

■機能性表示の解禁、慎重に制度設計を

新しく機能性表示制度を始めようとしている日本が参考にするというサプリメント大国・米国。だが話を聞くと、効果の根拠が不十分な商品や低品質で時に有害な商品への歯止めが緩く、行政の監視や取り締まりも十分ではない欠陥がみえてくる。消費者はこうした現状をあまり知らず、ブランドの知名度や店の信用などでサプリを選んでいる。

経済成長を追い求め急いで簡単に表示を解禁すれば、日本も同じ道をたどるかもしれない。人々の健康を傷つけず育む制度を慎重に設計するべきだ。また消費者ももっと関心を持つ必要があるだろう。(編集委員・大村美香)

2014年4月3日(木) 提供:毎日新聞