17年短い平均寿命

ブラジルのサンパウロから西へおよそ800キロ行くと、ボリビアとの国境近くにカンポグランデという町がある。ここにはたくさんの沖縄出身者が移住し、日系人として暮らす。

この町の人たちがよく口にするのが、日本でもおなじみになったブラジル料理「シュラスコ(焼き肉)」だ。サバンナに放牧されて育った牛の肉質はしっかりとしていてとてもおいしく、1人1日平均500グラム、若い男性ともなると同1キロを平気で平らげる。魚が食卓にのぼることはほとんどない。

カンポグランデに住む「沖縄県人」は2世、3世となるにつれ、もはや「沖縄県人」ではないことが、我々の調査研究でわかった。平均寿命が17年も短くなっているのだ。

詳しく調べてみると中高年から心臓病で死亡する人が多い。血液リン脂質に含まれるとよい脂肪酸量の割合は2−3%。サンパウロに暮らす沖縄出身の日系人の半分から3分の1しかなかった。サンパウロの日系人には魚や豆腐などの日本食が根付いている。

1996年、カンポグランデで400人を対象に健康診断を実施、その中から高血圧や高脂血症、高血糖値など生活習慣病の疑いが強い100人を選んだ。

この人たちをいくつかのグループに分け、ワカメの食物繊維を同5グラム、イソフラボン50ミリが入った大豆の胚芽(はいが)をふりかけなどで10週間取ってもらった。

驚いたことにこの栄養改善研究を始めて3週間で顕著な効果が表れた。食物繊維摂取グループで悪玉コレステロール値が下がった。イソフラボンを取った更年期の女性は血圧やコレステロール値が改善、骨からカルシウムが抜けるのを抑えていることもわかった。

長寿を決めるのは「遺伝ですか」「環境ですか」とよく質問される。カンポグランデでの研究で、その答えは明確になった。ワカメ、大豆、魚といった日本人が毎日のように何気なく食べてきた日本食のおかげで、日本は長寿の国になることができた。

(武庫川女子大国際健康開発研究所長 家森幸男)


2006.4.16 日本経済新聞