沖縄の知恵に学ぶ


世界保健機関(WHO)の調査研究目的で初めて沖縄を訪ねたのは今から20年前、1986年のことだ。琉球大学の協力を得て沖縄に住む人たちの尿を24時間チェックし、食生活を調べた。食塩の摂取量が1日8.2グラムで当時の日本人の3分の2。47都道府県で唯一、日本の目標値10グラムを下回っていた。

高めの塩分は健康を害する。高血圧からくる脳出血、コレステロール値を上げ心臓病を招く。胃がんにも関係することがわかっている。当時、沖縄の人たちが「減塩食」をおいしく口にしてきたことが長寿につながっていたことは間違いない。

公設市場に足を運ぶと、沖縄独特の島豆腐やゴーヤ(にがうり)などの食材が並ぶ。特に目を引いたのが豚だ。

沖縄の人たちは様々な料理にして豚を食べる。皮付き三枚肉をしょうゆと砂糖、泡盛で煮込んだラフテー、耳や顔の皮を焼いてゆできゅうりやだいこんの千切りとあえたミミガーなど。捨てるところは見あたらない。

豚一頭を食べ尽くすことで栄養バランスがよくなる。内臓には鉄分やミネラルが含まれ、耳や皮、豚足はコラーゲンがたっぷりだ。また、どんな料理も豚をいったんゆでてから使う。これで余分な脂肪が除かれ、上質なたんぱく質だけ取ることになる。

塩分だけでなく沖縄の人たちのコレステロール値も絶妙だった。平均1デシリットルあたり180−200ミリグラム。世界的にみてもこれほど理想的な値はほかに見あたらない。

コレステロール値は低いほどいいというものでもない。私たちの調査研究で低すぎる地域は脳卒中、とくに脳出血の発症が多かった。

年をとるとともに肉を敬遠する人も多いが実はよくない。高齢者でも食べないとむしろたんぱく質不足になりやすい。70代以降だと脳卒中から寝たきりや認知症になり健康寿命が縮まる。

世界的にも長寿の里として知られる沖縄県は、1995年に世界長寿宣言を出した。皮肉にも以降、沖縄の衰退が始まる。

(武庫川女子大国際健康開発研究所長  家森 幸男)


2006.4.30 日本経済新聞