循環器病の危険因子


脳卒中と心筋梗塞(こうそく)は、がんと並び日本の3大疾病と呼ばれる。どちらも血管や血液の循環にかかわる循環器病で、がんと同様に年齢とともにリスクが高くなり、生活習慣との関連が深い。

主に欧米人を対象にした循環器病の疫学研究結果をもとに、世界保健機関(WHO)は2003年、テクニカルリポートを発行、科学的根拠に基づく循環器病予防として、次のような生活習慣が良いとした。

飽和脂肪酸の割合を総摂取カロリーの10%、肥満などのハイリスク集団の場合7%までに抑えること。ただし、これは「豊かな国に限る」という注釈付き。途上国では、脂肪は重要なカロリー源だからだ。

果物と野菜は1日400−500グラム取る。血圧上昇を抑えるのに必要なカリウムや食物繊維の摂取を満たすことができる。食塩は1日5グラムまでに。血圧を低く抑えるためだ。

魚は週に1−2皿は取ろう。循環器病予防に不可欠な不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EHA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を摂取できる。

飲酒は勧められない。少量のアルコールで、冠動脈性の心臓病リスクだけは抑えられるが、他の循環器病のリスクは上昇する。運動はほぼ毎日30分以上が目安。冠動脈性の心臓病リスクは運動すればするほど低くなるが、リスクが高い人がいきなり激しい運動をするのはよくない。

心筋梗塞をはじめとする心臓病による死亡率は欧米では非常に高いが、日本では脳卒中による死亡率も同レベルに高い。同じ循環器病でも、心筋梗塞と脳卒中だとリスク要因は異なる。例えばコレステロールは心筋梗塞には明らかなリスクだが、日本人の最大の死因だった脳出血には予防的に働く。

われわれ疫学研究からも、喫煙・飲酒と脳卒中との関連を報告している。1日あたり日本酒で1合以上、ビールだと大びん1本以上の飲酒や、喫煙は脳卒中全体のリスク要因であることを示した。今後、さらに日本人の循環器病リスクを見極めたい。
(国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎)


2005.11.20 日本経済新聞