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キシリトールはコマーシャルなどによって、名前はよく知られてきましたが、その安全性・性質・さらにはなぜ虫歯予防に効果的※1なのかといった大切なことが、あまり知られていないと思われます。実際に歯科医師ですら誤った理解をしている場合もあるのです。  

キシリトールは天然素材の甘味料で、シラカバやカシを原料におもにフィンランドで生産されています。私たちの身近なところでは、イチゴやラズベリー等の果物やレタスやホウレンソウ、カリフラワー等の野菜などに含まれています。また体内でも肝臓で1日に5〜15g 生産されています。その安全性はWHO(世界保健機構)でも認められており※2、とても安全な甘味料だといえます。砂糖と較べて、カロリーは25%も低く糖度はかわりません。溶ける時に熱を吸収するので、独特の清涼感があります。
では虫歯予防の効果についてみてみましょう。砂糖の場合、糖をミュータンス菌が分解し発酵させて酸をつくりだします。その酸によって歯のエナメル質が溶かされて虫歯ができてしまいます。一方キシリトールの場合は、ミュータンス菌によって発酵せず、虫歯のもととなる酸が発生しません。しかもミュータンス菌は菌体内にキシリトールを取り込むことで、エネルギーを消耗して活性が弱まります。さらにキシリトールを長期にわたって使用することで、ミュータンス菌の繁殖が弱まって砂糖からも酸を生産できなくなるのです。 毎日私たちの口の中では、食事やおやつなどにより発生した酸を唾液の働きによって中和し、溶けたエナメル質を再石灰化する※3ということが行われています。しかし酸の発生する量と回数が増えると、再石灰化が追いつかずに虫歯になってしまうのです。(唾液の働きは人によってさまざまで、分泌がよい人や酸を中和する能力※4の高い人もいれば、そうでない人もいます)
しかし、キシリトールは唾液の分泌を刺激し、中和を促進させます。そして唾液中のカルシウムがエナメル質と結び付く再石灰化※5を活発にします。

※1フィンランドでは、50%以上キシリトール含有のものが、う蝕予防に効果があるとされています。

※2ヨーロッパの各国の歯科医師会でも推奨されています。

※3エナメル質表層う蝕により失われたカルシウムが再び戻る現象

※4緩衝能

※5唾液中に十分なカルシウムをリン酸塩が存在し、さらに唾液のPH値が十分に高い(中性領域にある)ことが再石灰化の科学的条件です。

※6現在、エストニアでキシリトール入りタブレットとガムとのう蝕予防効果の対比を調査中です。2年間をみると両者に差はなく、おそらくタブレットでも十分なう蝕予防効果が得られるのではないかとみられています。

フィンランドでは、食事の後と寝る前に必ずキシリトール入りガムをかみます。また小・中学校では食事の時にキシリトール入りガムを配り、小さい時からの習慣づけを行っています。

・食事やおやつの後には、必ずかむ!
・寝る前に必ずかむ!
・長期間続けてかむ!

これがキシリトールの効果を引き出すポイントです。逆に言えば、こんな簡単なことで効果が得られるのです。

―従来の3本柱―
正しい食習慣
適切なタイミングでの口腔内歯間清掃
フッ素の使用

正しいキシリトール入りガム※6のかみ方

この最小の努力で誰もが簡単に最大の効果を得る事が出来るのはとても素晴らしいことだとお思いになりませんか。
さっそく実践して、ご自分の健康を大切になさってください!  

 

若き日にキシリトール

松尾歯科医院 院長 松尾 通 先生 コラムより
http://www.matsmile.com/

 

キシリトールの口腔保護への効果、特にう蝕発生抑制効果がいま話題となっている。

キシリトールは、糖アルコールと呼ばれる甘味炭水化物として、植物の特定成分や人間の代謝系のなかに広く認められているが、代謝甘味料として糖尿病用の食事甘味料や非経口栄養剤として使われてきた。

1997年4月、厚生省が安全な食品添加物として承認して以来、キシリトールを甘味剤として使用したガムやタブレット類があっという間に普及し、他の含有製品を含めて国民の認知率は急速に高まっている。

キシリトールは、ショ糖と同等の甘味度、カロリーは4分の3、果実や野菜に含まれ、生体内でも作られている。インシュリンに関係なく代謝され、糖尿病患者にも使える。

口腔内での作用では、う蝕抑制効果がまず上げられるが、ストレプトコッカス・ミュータンスに代謝されないため、酸を生成できない。また代謝しようとして大きなエネルギーを消費するため、ミュータンス菌は疲労し、活性が弱まりさらに減少していく。その結果キシリトールの摂取を続ければ、プラーク形成が約50パーセント抑えられる。また唾液分泌が促進され、口腔内の防御機構の活性が高まる。そしてプラーク中の可溶性カルシウムが増加し、カルシウムによってエナメル質の再石灰化が促進される。こうしたキシリトールの長所を、フィンランドなど北欧諸国では使用加工し、歯科予防商品として市場に出している。

話は、30年ほど前にさかのぼる。日本歯科大学生化学教室の門を叩いた私は、当時の主任教授である三代幸彦先生の指導の下で、代替甘味料の研究をしていた。糖アルコールをう蝕予防のために用いたらどうかという考えの検証でもあった。う蝕発生にはプラークの形成が必要だが、糖アルコールを使うことにより、プラークの形成減少、発酵減少の二つの点で、う蝕発生が減るのではないかという期待が既に生化学教室では考えられていた。

そして単糖類アルコールであるソルビトール・マンニトール・キシリトール、二糖類アルコールであるマルチトール、ラクチトールを用いて教室員は唾液の性状変化の研究に精力的に取り組んでいた。

ほとんど同時に入局したクラスメートの宮村栄比古君(故人)、島田勝彦君(板橋区)と共に、梅干しやレモンを片手に、新鮮唾液を採取しては糖アルコールを作用させ、pHや乳酸の産生について調べていた。昭和48年2月1日発行の「歯学」第60巻第6号に自分の学位論文「マルチトール・ラクチトールの唾液内発酵について」が掲載されている。いま改めてその論文を読み返してみると、結論の所にキシリトールは供試細菌によってもまた唾液内でも発酵されなかったと明記している。
今日のキシリトールの流星を見るとき、若き日の実験室の光景を思い浮かべ、改めて三代教授の研究の先進性を尻、感慨深いものがある。

日本歯科大学歯学会 歯学85 春季特集号 (歯科界の潮流)別刷 キシリトール物語 より