1.日常生活の"酸"から歯を守る
日常生活の"酸"から歯を守る
2013年1月28日
酸蝕の影響から歯を保護する
酸蝕への関心が高まっています。
現代の食生活習慣では、エナメル質が飲食物による“酸"に触れることが多くなってきております。つまリ、tooth wearの最大要因である酸蝕"を引き起こす可能性が高まっています。1-4
初期段階の酸蝕は、鑑別が難しい場合があります
酸蝕の初期にみられる兆候:
@エナメル質が薄くなるにつれ透光性増大
A口蓋側のtooth wear
B特徴的なエナメル質の損耗
C咬合面の杯状の凹み
典型的な酸蝕の患者さんには、次のような食習慣や病歴があるかもしれません:
・酸性飲食物の大量摂取
・頻繁に酸を摂取する、あるいは長時間に渡る歯への酸の接触
・酸性薬剤の常用
・胃酸の逆流歴
どのようにして、患者さんを改善できるでしょうか?
最適化されたフッ化物の処方は、
酸蝕の患者さんにどのように役立つでしょうか?
同量のフッ化物を含む他の歯磨剤とは異なり、
フッ素トリートメントは酸蝕に着目し最適化された歯磨剤です。
エナメル質表層へのフッ化物の取り込みを促進することは、
in situ実験で、臨床的に証明されています:
・酸により軟化したエナメル質を再び硬くします(硬さの回復)6
・より硬い歯質を作り、酸によるダメージ、を防ぎます6
酸により軟化したエナメル質を再び硬くします
• フッ素トリートメントは、最適化された処方で、酸により軟化したエナメル質の再石灰化を促進7
• フッ素トリートメントは、酸により軟化した歯質を再び硬くします7
酸蝕からの影響を継続的に妨ぎます
・エナメル質を徐々に硬くします8
・より硬い歯質を作り、酸によるダメージを防ぎます7
フッ化物は、酸により軟化したエナメル質を再び硬くさせ、酸蝕からの影響を継続的に防ぐことが証明されています5,7
すべてのフッ化物入り歯磨剤が同じではありません
最適化されたフッ素トリートメントの処方
フッ素トリートメントは酸蝕から歯を守るため、歯に取り込まれるフッ化物がより多くなるよう処方設計されています。約6000ppm
一般的には、どの歯磨剤も1000ppm同等量のフッ化物が配合されています
フッ化物は、歯磨剤中の他の成分と結合することにより、有効利用性(取り込まれるフッ化物の量)が低下する場合があります
フッ素トリートメントは 、取り込まれるフッ化物をより多く有効利用するため、エナメル質の強化につながります
歯磨剤に配合されたフッ化物量が同じであっても、同等の効果が得られるとは限りません
フッ素トリートメントの最適化された処方は、
酸により軟化したエナメル質を、
再石灰化し、再び硬化させることが確認されています
酸蝕症から歯を守る
聖蹟サピアタワークリニック東京再生医療センター副院長
(元東京医科歯科大学歯学部臨床教授) 安田登
健康な歯質が何らかの事情で失われるTooth wear(トゥース・ウェアー)は、高齢化が進んだ現在、う蝕、歯周病に次ぐ第三の歯科疾患と呼ばれるようになった。Tooth wearは、咬耗、摩耗そして酸蝕によるものだが、原因はしばしば複合的である。そして注意すべきことは成長期の子供たちまでもが、いまでは広く「酸蝕症」に侵されているのである。かつては、精錬所やメッキ工場などで塩酸や硫酸などを扱う職人にのみ認められた職業性の稀な疾患だったが、酸性度の高い清涼飲料水などが常用されるようになって、酸蝕症は誰にでも起こる歯の疾患になった。接着歯学はじめミニマルインターベンションの提唱者として知られる安田登氏(元東京医科歯科大学歯学部臨床教授)が、「酸蝕症」の原因と診断について分かりやすく解説する。
(日本アンチエイジング歯科学会第5回記念学術大会の講演を元にまとめた)
1.第三の歯科疾患とは、何か?
この数年、Tooth wear (トゥース・ウェアー)がう蝕、歯周病に次ぐ第三の歯科疾患と言われて、注目されるようになっています。Tooth wearとは、咬耗,摩耗あるいは酸蝕によって歯の表面の正常な構造が失われた状態を言います。このうち、「酸による歯質の欠損」ただし「細菌が関与しない酸」によるものが酸蝕症です。
酸蝕症は、古くて新しい病気です。古くは職業関連の疾患でした。精錬所, メッキ工場など塩酸、硝酸、酢酸など酸を扱う工場の職業病として知られていました。変わったところでは、ソムリエや寿司職人にも酸蝕症があります。ソムリエは、ワインを口に含んでテイスティングをしますが、ワインは酸性飲料ですから酸蝕症のリスクにさらされるのです。水泳選手は、プールの水が消毒用の次亜塩素酸を含みますので、日に何時間もプールで泳ぐような選手にとっては深刻な問題になります。
かつて高齢者の歯が磨り減っていることは当たり前のことでした。酸蝕症も特殊な職業性の疾患でした。しかし高齢化が進み、年をとっても美しく健康でいたいという願望の高まりに対して、私たち専門家は発想の転換を迫られています。
「古くて新しい」の新しいほうは、飲食物由来、とくに清涼飲料やアルコール飲料の酸によってもたらされている問題です。酸蝕症の可能性の高い飲食物は、柑橘類、酸性飲料、サラダドレッシング、酢漬けの食品、りんご酒そしてワインです。ワインは、pH2.8 〜 3.8で、じつはとても酸性度の強い飲料です。「ワインは糖と酸のバランスにおいしさの秘訣があります。おいしいワインは酸がピリッと感じるのです」。この他、知らずに口にしているものでは、酸性の内服薬(例・アスコルビン酸;ビタミンC)なども注意が必要です。
酸蝕症には、このような酸性飲食物による外因性のものと内因性のものがあります。外因性酸蝕症は、文字通り身体の外部からもたらされる酸によって生じ、内因性酸蝕症は身体の内部の酸によって生じるものです。
■pH (ペーハー)とエナメル質の脱灰
エナメル質は、pH5.5よりpHが低くなると溶け始め、高ければ守られます。エナメル質の脱灰は、酸との中和反応ですが、それは必ずしもpHだけによって決まるものではありません。
口腔内に唾液の中に溶け込んだ乳酸のHイオンがあれば、ハイドロキシアパタイトが中和反応を起こしてエナメル質は脱灰してしまいます。象牙質表面の処理に用いるEDTAはpH8にもなっていますが脱灰に使われます。同様に、口腔内のpHが5.5以上になったとしてもエナメル質は脱灰するというわけです。
■外因性の酸蝕症
図1は、アルコール飲料のpH値を示すものですが、赤ワインはpH3.8、ビールがpH4.3で、アルコールも歯には良くないのです。寝酒は歯には良くないことを是非、患者さんに伝える必要があります。
酸蝕症の疫学調査はあまり多くありません。しかし、子供の酸蝕症が増加していることは明らかです。そして、多くの子供の酸蝕症では、口蓋側に顕著に酸蝕が表れていますので、飲料の影響が無視できません。とくにコーラなど清涼飲料が問題でしょう。日本でも清涼飲料の消費量が増加していますので、子供の酸蝕症の増加が懸念されます。
■内因性の酸蝕症
内因性の酸蝕症の原因には、反復性嘔吐、胃酸の逆流、食物の反芻癖などがあります。反復性嘔吐は、拒食症など摂食障害がポピュラーですが、消化器疾患(消化器潰瘍、食道裂孔ヘルニアなど)、薬の副作用(抗腫瘍剤、鉄製剤、強心剤など)、慢性アルコール中毒や妊娠時のつわりなど、幅広い原因があります。
胃酸の逆流は、胃食道逆流症や十二指腸潰瘍によって起こります。胃酸のpHは1.0〜2.0ですから、逆流症によって簡単に酸蝕が起こります。食道裂孔ヘルニアで食道裂孔がゆるんで逆流が増加します。俗に、ピロリ菌を除菌すると逆流症が増えると言われるようですが、これは除菌によって胃酸の分泌が正常になるために、食道裂孔ヘルニアをもっているような人の場合に逆流症が増えるもののようです。胃が元気になって、胃酸の逆流が増えるのですね。
2.Tooth wearと酸蝕症の診断
Tooth wearに関する問診では、次のことに注意します。
健康状態,患者の認識,進行状況に関する記録,
過去の歯科治療の記録,過去および現在の食生活パターン,
パラファンクショナルな活動,その他の口腔習癖
Tooth wearの診断におけるAbrahamsenの診断アルゴリズムは、とてもシンプルですが有用です。実例をあげて、ご紹介します。
Abrahamsenの診断アルゴリズムでは、歯質の失われている部位と形態に注目します。まず、「臼歯部より前歯部の酸蝕が顕著で、上下顎のすり減り面が一致」していればブラキシズムを疑います(図2a)。同じように[前歯部の歯質欠損が顕著で、上顎前歯部口蓋側に歯肉から移行的な歯質欠損がある」場合は、胃酸の逆流による酸蝕の疑いが濃厚です(図2b)。
反対に、「前歯部より臼歯部の歯質欠損が顕著で、臼歯部の咬合面にカップ状またはクレーター状の欠損がある」場合は、外因性の酸蝕症を疑います。カップ状またはクレーター状の欠損が、下顎第一大臼歯に顕著であれば炭酸飲料の摂取が濃厚です(図2c)。炭酸飲料は、頻繁な摂取のほか、口の中に炭酸飲料を溜めて長時間飲み込まない摂取習慣(soda/coke swishing)がとくに悪影響を及ぼします。このような歯質欠損が、上下顎の臼歯部咬合面に見つかれば柑橘類を皮ごと臼磨するような習慣(fruits milling)が疑われます(図2d)。
歯の唇側表面(とくに下顎犬歯と小臼歯)にサンドブラストしたような細かい歯質の消失が見られる場合は、歯磨き剤の誤用を疑うべきでしょう。その他、高齢者の口腔内では、咬耗に酸蝕が加わったものや、摩耗と咬耗に酸蝕が加わったものなど原因が混合したものが多く認められます(図2e,f)。
3.酸蝕症の予防と対策
酸蝕症に侵された歯は耐酸性が低くなり、放置すると歯髄炎を生じることがあります。そこで、酸蝕症を認めた場合には、まず患者さんに予防を働きかけるべきですが、予防には@原因の除去とA歯質の強化の二つがあります。
■原因の除去
原因の除去とは、外因性酸蝕症の場合には、摂取する酸のコントロールです。すなわち、酸性食品を制限し、摂取の方法を改めます。内因性の酸蝕症では内科的疾患の治療を勧めます。歯質の強化は、フッ化物を応用してエナメル質の耐酸性を高め、唾液分泌を活発にして再石灰化を促します。
■歯質の強化
歯質の耐酸性を高めるためには、フッ化物の応用に勝る方法はありません。フッ化物によって、再石灰化と同時にエナメル質を構成するハイドロキシアパタイトがフルオロアパタイトに置き換わり、高い耐酸性を獲得します。さらに食物をしっかりと噛める状態に歯列を回復し、十分に噛む習慣をつければ、唾液分泌は活発になります。唾液による中和作用とともに、清掃後に唾液由来のぺリクルが歯の表面に被膜をつくれば、酸による侵食は進みません。
ここで、酸蝕症に対する予防効果の高い歯磨剤についてご紹介しておきます。酸蝕症は、まず知覚過敏によって自覚され、治療対象となることが多いでしょう。そこで知覚過敏を防ぐと同時に歯質の耐酸性を高めて、歯質を強化することができれば、酸蝕症の効果的な予防となり同時に知覚過敏への対処法になります。
シュミテクトPROエナメル(グラクソ・スミスクライン社、医薬部外品)は、薬用成分として硝酸カリウムとフッ素を含んでいます。
硝酸カリウムのイオンバリア効果で知覚過敏を防ぎ、フッ素イオンがエナメル質の再石灰化を促進します。C.S.Newbyの研究(JClin Dent,2006)によると、PROエナメル(F;1100ppm)はエナメル質へのフッ素の取り込みが、他のう蝕予防効果をうたった市販歯磨剤の倍に及んだとのことです。
シュミテクトPROエナメルの特徴
フッ化ナトリウム 酸により軟化した歯質も強化(硬さの回復)※
低研磨 酸により軟化したエナメル質表層のダメージを防ぐ
硝酸カリウム 知覚過敏で、歯がしみるのを防ぐ
pH7.1 (中性)
※Hara AT. et al. Comparative evaluation of fluoridated toothpastes using an in situ erosion
remineralization model.Poster presemnted at ORCA,LO-Skolen,Helingsor,Denmark,july4-7 2007.
4.酸蝕症への対応
酸蝕症は、象牙質知覚過敏症を招き、歯質の欠損そして歯髄炎を引き起こします。
象牙質知覚過敏症とは、象牙細管が外部に開口し、細管内の象牙質液が冷気、冷水あるいは摩擦刺激によって移動して歯髄神経を刺激し、痛みになるといわれています。そこで、、象牙質知覚過敏症の永久的な対処法として考えられるのは、開口した細管を塞いでしまうことです。接着性高分子のコート材で開口部を塞ぐ方法が効果的です。コート材で処理した断面を電子顕微鏡で観察すると、象牙細管内にコート材が流れ込んで固まり、ワインの栓のようになっています。
では、酸蝕症が進んで、実質欠損になってしまったらどうすればいいでしょうか。この場合は、接着性レジンを用います。ボンデイング剤を塗布しただけで、知覚過敏には効果がありますが、歯質の実質欠損が大きければ、修復が必要になります。その場合は、コンポジットレジンでもよいでしょう。
つい先日も、歯が凍みると訴えて来院された患者さんが、重度の酸蝕症でした。この方は、健康のために毎日黒酢を飲んで、いらっしゃいました。食酢には酢酸のほかクエン酸、リンゴ酸、コハク酸等が含まれています。クエン酸はエナメル質のエッチング剤ですから、エナメル質が酸蝕するのは当然です。原因が分かれば、対処法は明確になります。酸蝕症の原因と対処法をご理解いただくことは、患者さんの大きな信頼につながるでしょう。
酸蝕症から歯を守る・・・まとめ
見逃してきた歯質の欠損が、第三の歯科疾患
蔓延する非う蝕性の「酸による歯質の欠損」--酸蝕症に注目
清涼飲料を長時間口の中に溜めるsoda swishing、
柑橘類を皮ごと噛みつぶすfruits millingを見抜くポイン卜
口腔内から推測することができますか?咬・摩耗と内因性と外因性の酸蝕症
酸蝕症の予防は、原因の除去と歯質強化の両面から
象牙質知覚過敏の予防と治療は、患者さんの大きな信頼につながる
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