タバコと心の健康

参考:2016年6月15日 (水)配信毎日新聞社

 ◇安陪内科医院(鳥取市) 安陪隆明さん  昔テレビ番組の中で某大学教授が「日本では1年に3万4000人が自殺する。自殺者を無作為に抽出して調査したところ、自殺した2000人は喫煙者がゼロだった」という話をしたことがありました。タバコを吸えばすっきりストレスがなくなり自殺しなくなる、とでも考えてしまいそうな話ですが、この話は本当なのでしょうか?  実は話はまったく逆で、喫煙者の方がタバコを吸わない人と比べて自殺リスクが高いことが判明しています。2005(平成17)年に発表された国立がん研究センターの多目的コホート研究によれば、タバコを吸う人は、吸わない人に比べて30%自殺リスクが高いという結論が出ています。また特に1日60本以上タバコを吸う方は、吸わない人と比べて2倍以上も自殺リスクが高いという結果も出ています。  なぜタバコを吸わない人と比べて喫煙者の方が自殺リスクが高いのかという理由はよくわかっていません。しかし、少なくともタバコを吸ったからといって自殺予防にはつながらないことは確かなようです。  タバコの中のニコチンは、体内に入ると血液を介して脳まで運ばれ、そして脳内で結合して、すっきりとしたような、ほっとしたような気分を作り出します。つまりニコチンは脳に直接効く精神系の薬物です。しかしその作り出された、すっきりとしたような、ほっとしたような気分は、一時的な幻にすぎません。その人のストレスの原因となっている社会的なさまざまな原因が、タバコを吸ったからといって煙となって消えてしまうわけではないのです。  さらにこのタバコ(ニコチン)という薬物を使い続けているうちに、人間の脳は変化してしまい、ニコチンがなければ、ほっとできない体に変わってしまいます。ちなみにタバコを吸ってニコチンが体に入ってきても、このニコチンは徐々に肝臓で代謝され腎臓で排せつされて、時間がたつうちにどんどんなくなってしまうので、気分を落ち着かせるためには、何本もタバコを吸わないといけないということになってしまうわけです。  タバコを吸っていると体が健康にはなれないことはよく知られていますが、心もまた、タバコを吸っていても健康にはなれません。タバコのような薬物に頼らずに、自分のストレスとうまく向き合い解決していくことこそが重要だと考えられます。