医療訴訟について

参考:一般社団法人神奈川県歯科医師会 医事処理検討部会だより Vol.16(平成28年9月)

 アメリカは訴訟社会と言われるくらい裁判が多く、ファーストフード店のコーヒーが熱く火傷したというだけで訴えられ高額な賠償が加害企業に命じられたというニュースがありました。それに比べ日本では訴訟が提起される割合は少ないですが、人々の権利意識の高まりとともに訴訟リスクが高まることが懸念されています。  全般的な医療訴訟件数は、平成16年をピークに減少傾向にありましたが、平成20年以降は年間約800件前後とほぼ横ばいの状態が続いています。診療科別の内訳では、内科が最も多く次いで外科となりますが、歯科も決して少なくはありません。統計上、医療訴訟の約半数は和解で解決しており、判決となるのは4割弱くらいです。  交渉段階で解決できず訴訟にまで至った事案は、医療者としても過失がないとして争っている事案がほとんどであり、避けられない合併症であったものも多いのではないかと思われます。そうは言っても医療訴訟にまで発展するような事例には、遭遇したくないものです。ここで実際に、訴訟になり和解した例を挙げたいと思います。  患者は20代の女性で、舌根部の違和感を主訴に来院しました。所見により直径0.3ミリほどの白い楕円形のアフタが舌側辺縁部に認められました。担当歯科医は口内炎と診断し、消毒と口腔用軟膏の塗布薬を処方し経過観察をしていました。しかし治癒する兆しが見えず、半年ほどして他院を受診し、そこから口腔外科を紹介されて最終的に舌癌と診断されました。その段階で、最初に歯科医院を訪れてから半年経過しており、摘出手術を行いましたが、その間に進行していたことから、患者側は歯科医師を訴えました。結果的には、患者側も歯科医師に必ずしも過誤があるとは評価できないことを理解し、双方の話し合いで和解が成立しました。  最初の歯科医師は、ある時点で早めに口腔外科つまり専門医に判断を委ねた方が良かったと推測されます。自身の経験や医療水準に照らし合わせて治療が困難である場合もしくは症状が改善しない場合は可及的速やかに専門医の受診を勧めた方が良かったと思われます。  この事例のように、実際の裁判では、判決には至らずに和解で解決するケースも多いのですが、いずれにせよ、訴訟となった場合には、開設者のみならず、勤務医にも大きな負担がかかってきます。神奈川県歯科医師会医事処理検討部会が行う歯科電話相談窓口での患者からの相談件数も増加傾向であり、内容も多岐にわたります。日々の診療の中で私たち歯科医師は細心の注意を払い医療行為を行っていますが、患者との紛争を未然に防止するためには、歯科的な医療技術の向上はもちろんの事、患者とのコミュニケーションも十分にとることが必要ではないかと思われます。