感染症:クロルヘキシジン?それともポビドンヨード?

参考:日経メディカル 2016/9/28 森兼 啓太(山形大学医学部附属病院感染制御部・検査部)

 カテーテル関連血流感染は、第1回でお示ししたように院内感染の上位にランクされるほど、頻繁に発生しています。年間7~8万件のカテーテル関連血流感染が米国で発生しています。この内訳については米国CDCが2011年に発行した血流感染に関する白書で報告しており、中心静脈カテーテル(中心ライン)に関連する血流感染が年間4万1000件、血液透析に使用されるカテーテルに関連する血流感染が3万7000件です1)。 血流感染は、要するに全身に菌が廻っている状態ですから、早期に診断し適切な治療を行わなければ死亡という不幸な転帰につながることもしばしばあります。幸い回復した場合でも、抗菌薬以外に全身管理などで多額の医療費を必要とします。先ほどの白書でも、1件の血流感染発生による追加医療費を6万6000ドル(約660万円)と試算しています。 一方、日本のカテーテル関連血流感染発生に関する推計はなされていません。院内感染対策を主領域とする学会である日本環境感染学会が81施設から収集した中心ライン関連血流感染発生のデータによれば、カテーテル1000日使用当たり約2件の血流感染が発生しています。中心ライン用のカテーテルは年間130万本ほど販売されています2)。平均使用期間を10日間と仮定すると、日本では年間約2万6000件の中心ライン関連血流感染が発生していることになります。 このように、医療費を大きく増大させ、患者予後にも大きな影響を与える中心ライン関連血流感染ですが、基本的な防止策は既に確立しています3)。注意すべき点は、
  • カテの挿入時の清潔操作
  • ラインにアクセスする際の清潔操作
  • カテの皮膚刺入部の清潔保持
  • 輸液作成環境の清潔保持
  • 不要なカテの速やかな抜去
などがあげられます(清潔操作・保持ばかりですね……)。 さて、皆さんは中心静脈カテを挿入する際、どのような皮膚消毒薬を使用しているでしょうか。消毒してすぐに刺入する操作をするので速効性が重要であり、その後皮膚常在菌がカテの外壁を伝わって体内に進入するのを防ぐために残留活性が必要です。2つの効果を併せ持ち、かつ皮膚に安全に使用できる単一の薬剤はありません。 そこで、2つの製剤を混合した薬剤がベストチョイスということになります。速効性はアルコール(エタノールまたはイソプロパノール)で決まりなのですが、問題は残留活性を持つ薬剤です。臨床現場では、クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)とポビドンヨード(PI)の主に2種類が使われています。PIは色がつくため、「消毒しました」という充実感(?)が得られるからか、皮膚消毒の様々な場面で使用されています。 カテーテル関連血流感染防止効果に関しては、両者に差があるのかという点が長く議論されてきました。2015年、CHGアルコールの合剤と、PIアルコールの合剤を比較する初めての無作為化比較試験の結果が報告され、前者が大きく優れているという結果となりました4)。従って、中心静脈カテ刺入時の消毒は、特に禁忌でない限り、CHGアルコールを使うのが良いでしょう。私の所属施設ではこれを受けて、1%CHGアルコール製剤を推奨するようにしています(が、医師の長年親しんだ習慣を変えるのに苦労しています)。 近年では、それらの対策を行って既に相当低い感染率(1000カテーテル使用日数あたり1件程度)になっている施設でも、更に感染率を下げる取り組みが行われています。カテーテルが皮膚から体内に入っていく刺入部に対するドレッシング材に消毒薬(CHG)含有素材を使用する5)、集中治療室入室中の患者にCHG含浸布で清拭する6)、などがその一例です。 私の所属施設では、集中治療ユニット(ICU)で中心ライン関連血流感染が続けて発生したことをきっかけに、CHG含有ゲル剤つきドレッシングを導入しました。同剤無しのドレッシングに比べてコストが数倍になる一方、保険償還はされない医療資材なので、まずは適応を限定して感染のリスクが高いと考えられる患者に対する使用での導入を病院に提案し、了承されました。今後その効果を検証していく予定です。 なお、日本環境感染学会では教育用動画を作成しています。今回の血流感染に関する動画は下記から観られますのでぜひご活用ください。ツッコミどころが多すぎますが、そこは教育用動画ということで……。