コレステロールと中性脂肪、どうすれば正常化する?

参考:日経Gooday 2016/9/26 田中美香=医療ジャーナリスト

食事が効くもの、運動が効くもの…種類によって異なる対策

日本の約206万人がわずらう脂質異常症(厚生労働省平成26年「患者調査の概況」)。偏った食事や運動不足などを原因とすることが多く、放置すれば動脈硬化から狭心症や脳梗塞を引き起こし、突然死に至りかねません。しかも自覚症状がないのが怖いところです。まさかの事態が起こる前に、生活をどう改善すればいいのか、薬物療法はどのように進められるのか、帝京大学理事・名誉教授で同大学臨床研究センターセンター長の寺本民生氏に聞きました。

2017.1.25追記

日本の約206万人が患う脂質異常症(厚生労働省平成26年「患者調査の概況」)。偏った食事や運動不足などを原因とすることが多く、放置すれば動脈硬化から狭心症や脳梗塞を引き起こし、突然死に至りかねません。まさかの事態が起こる前に、生活をどう改善すればいいのか、薬物療法はどのように進められるのか。帝京大学理事・名誉教授で同大学臨床研究センターセンター長の寺本民生氏に聞いたところ、異常値を示す脂質の種類によって対策が異なることが分かりました。

LDLは過剰になると動脈の壁に入り込む、HDLはそれを引き抜く

コレステロールには悪玉と善玉があるといいますが、どのような仕組みで脂質異常症が起きるのでしょうか。 寺本 コレステロールは脂質の一種で、人間の体の中で細胞膜や胆汁酸(消化液)、副腎皮質ホルモンや性ホルモン(男性ホルモン、女性ホルモンなど)の原料となります。つまり、人体を維持するのに欠かせない物質です。コレステロールには、悪玉のLDLコレステロール(以下、LDL)と善玉のHDLコレステロール(以下、HDL)があります。 コレステロールの7~8割は、体内で合成されています。このうち悪玉のLDLは肝臓で作られ、血流により全身に送られて有効利用されていますが、過剰になると血中に溜まってしまいます。そうなると、行き場がないLDLは動脈の壁に入り込むしかありません。これが動脈硬化の原因となります(下図)。 HDLコレステロールとLDLコレステロールの働き
HDLコレステロールとLDLコレステロールの働き
悪玉のLDLと善玉のHDLのバランスが大切だ。
一方、善玉のHDLは小腸などで作られ、動脈に溜まったLDLを引き抜いて肝臓に回収する役割を果たします。動脈硬化においては、LDLが高すぎること、HDLが低すぎることのいずれもが問題になります。 また、脂質の1つである中性脂肪も、増えると肥満脂肪肝の原因となり、動脈硬化を引き起こすので注意が必要です。 ― LDLや中性脂肪が増えたり、HDLが減ったりする原因は何ですか。 寺本 脂質異常症の約9割は、動物性脂肪に偏った食生活や運動不足、喫煙などの生活習慣によるもので、遺伝からくる家族性の脂質異常症は1割程度です。表1の通り、脂質異常症は高LDL・低HDL・高中性脂肪の3つのタイプに分かれます。なかでも多いのが、悪玉の高LDL、高中性脂肪の2つで、割合はほぼ同程度です。善玉の低HDLはそれほど多くありません。 表1 脂質異常症の3つのタイプ
タイプ 血中脂質値 原因・注意すること
LDLコレステロール値が高いタイプ (高LDLコレステロール血症) 140mg/dL以上 ※120~139mg/dLは境界域高LDLコレステロール血症という
  • コレステロールや飽和脂肪酸(*1)の多い食事が原因となりやすいので、これを控える(動物性脂肪、卵黄、魚卵、内蔵、バターや生クリームのような乳製品など)
  • トランス脂肪酸(*2)を含む食品を控える(マーガリン、クッキー、ケーキ、インスタント食品など)
  • 食物繊維はコレステロールを排出する作用があり、積極的に食べるようにしたい(海藻、豆類、きのこ類など)
HDLコレステロール値が低いタイプ (低HDLコレステロール血症) 40mg/dL未満
  • 運動不足、肥満、喫煙から起こる
  • 食事よりも運動が効果的。できれば1日30分程度、軽いジョギングなどの有酸素運動を日課にするとよい
  • 禁煙も心がけよう
中性脂肪値が高いタイプ (高トリグリセライド血症) 150mg/dL以上
  • アルコールや糖質の摂り過ぎが原因
  • 糖分の多いお菓子やジュース、アルコールを控える
  • EPAやDHAが豊富な青魚は積極的に食べる(いわし、さばなど)
  • HDLが低いタイプと同様に、運動も効果的
  • トランス脂肪酸を含む食品を控える
*1 肉の脂身などの動物性脂肪に多く含まれ、悪玉のLDLや中性脂肪を増やす原因となる。これに対し、オレイン酸(オリーブ油など)、EPAやDHA(青魚など)のような不飽和脂肪酸はLDLを減らす効果がある。 *2 油脂を精製する工程などで作られる。上記のほか、スナック菓子やファーストフードにも多く含まれる やっかいなのは、健康診断などで検査を受けた人のうち、自分の血中コレステロール値について自覚している人は3割程度しかいないということです(厚生労働省平成12年「循環器疾患基礎調査」)。しかも、数値が異常だとわかったとしても、症状がなければ多くの人は受診しません。脂質異常症を放置すると、徐々に動脈硬化が進み、狭心症、脳梗塞などで突然死に至ることも珍しくありません。そのため、脂質異常症は高血圧と同様、サイレントキラーと呼ばれます。

LDLが高い人はまず徹底的に動物性脂肪の摂取をやめてみる

脂質異常症で病院に行くと、すぐに薬で治療することになるのでしょうか。
LDLが多すぎてもHDLが少なすぎても動脈硬化のもとに。(©luk Cox -123rf)
LDLが多すぎてもHDLが少なすぎても動脈硬化のもとに。(©luk Cox -123rf)
寺本 家族性の脂質異常症の場合は別ですが、生活習慣が原因の場合は、生活を変えれば改善するはずです。そのため、通常、すぐには薬を使いません。高LDLに対しては運動はあまり効きませんが、食事療法は効果が高く、コレステロールや飽和脂肪酸の摂取量を減らすと効果があります。 食事を変えるにあたり、まずは1カ月間、肉や卵などの動物性脂肪を徹底的にやめてもらいます。その生活を一生続けるわけではなく、その人の体が食事の変化に反応するかどうかを実験するのです。食事を変えて反応が出る人は、LDL値が顕著に下がります。1カ月で20%も下がる人もいるほどです。反対に、食事を変えても反応しない人には、薬による治療を検討します。 また、中性脂肪が高い人には、別のアプローチが必要です。男性はお酒をよく飲む、女性はお菓子が好き、という具合に男女で傾向がきれいに分かれるので、性別によって生活指導を変えていきます。 ― 最近は「食事に含まれるコレステロールは気にしなくていい」という報道もありましたが、本当ですか。 寺本 食事に含まれるコレステロールが血中のコレステロール値に与える影響は、個人差が非常に大きいのが特徴です。日本人は、食事のコレステロールに反応する人・しない人の割合が半々くらい。コレステロールの摂取量と血中コレステロール値が比例しない人も多いのです。こうした理由で、厚生労働省が作成する「日本人の食事摂取基準2015年版」では、コレステロールの摂取上限値が撤廃されました。 だからといって、好きに食べていいと考えるのは誤解です。脂質異常症の人の中には、コレステロール摂取量が多いために発症する人も確実にいます。その人たちのコレステロール摂取量を制限しなければ大変なことになります。やはり1カ月の実験期間で食事への反応を見てから、その人に合った生活を見つけることが大切です。

LDLや中性脂肪が高い場合の薬物療法はどのように?

悪玉のLDLが高い場合は、どのような薬を使うのですか。 寺本 食事を改善しても効果がなければ、薬を検討します。でも、動脈硬化がない人に薬は必要ありません。まずは頸動脈エコーで動脈硬化があるかどうかを調べ、動脈硬化が確認された人に対して薬物治療を行います。 高LDLの患者さんに対して、9割以上の割合で使うのがスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)という種類の薬です(表2)。スタチンは安全性と有効性が立証された薬で、約3割の動脈硬化が予防できます。スタチンは、コレステロールが末梢血管に運ばれた時に、細胞がコレステロールを利用するためのゲート(LDL受容体)を開かせる作用を持っています。細胞がコレステロールをどんどん受け入れれば、血中にLDLが溜まらず、LDL値は下がっていきます。 スタチンの効果を高めるために、エゼチミブ(商品名ゼチーア)という薬を併用することもあります。エゼチミブは、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬と呼ばれ、コレステロールが小腸から吸収されるのを阻害し、LDL値を下げる働きがあります。 また、2016年4月以降、エボロクマブ(レパーサ)やアリロクマブ(プラルエント)という新薬が発売されました。これらの薬はPCSK9阻害薬という種類の薬で、家族性の脂質異常症の患者さん、もしくは心筋梗塞のリスクが高く、スタチンの効果が不十分な患者さんに対して使われます。 PCSK9(プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)は、LDL受容体に結合して分解を促進する働きを持ちます。その結果、血中のLDLは細胞に取り込まれにくくなります。エボクロマブやアリロクマブはこのPCSK9の作用を阻害し、LDL受容体が分解されないよう働きます。それにより、血液中の過剰なLDLが減って数値が下がるのです。 ただし、いずれも皮下注射による薬で、価格が高いのが難点です。たとえば月2回の注射であれば、3割負担の人で1カ月に約1万4000円も薬剤費がかかります。この出費は患者さんにとっては負担です。 表2 おもな脂質異常症治療薬
薬の種類 主な副作用
L D L  HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン) プラバスタチン(商品名メバロチンほか) 腹痛・嘔吐などの消化器症状、肝障害、横紋筋融解症
陰イオン交換樹脂(レジン) コレスチラミン(クレストラン) コレスチミド(コレバイン) 便秘・嘔吐などの消化器症状、肝機能障害
小腸コレステロール トランスポーター阻害薬 エゼチミブ(ゼチーア) 下痢・便秘・腹痛・嘔吐などの消化器症状、肝障害、筋肉中の酵素上昇など
プロブコール プロブコール(シンレスタール、ロレルコほか) 下痢・軟便・嘔吐などの消化器症状、発疹・かゆみなどの皮膚症状、横紋筋融解症
PCSK9阻害薬 エボロクマブ(レパーサ) アリロクマブ(プラルエント) 糖尿病、注射部位反応、肝酵素異常、CK(CPK)上昇、頚動脈内膜中膜肥厚度増加、筋肉痛など
フィブラート ベザフィブラート(ベザトールSR、ベザリップほか) フェノフィブラート(リピディル、トライコアほか) クロフィブラート(ビノグラックほか) クリノフィブラート(リポクリン) ペマフィブラート(2017年ごろ発売予定、商品名未定) スタチンを併用する場合、横紋筋融解症が出ることがある その他、肝機能障害など
ニコチン酸誘導体 トコフェロール(ユベラNほか) ニセリトロール(ペリシット) ニコモール(コレキサミン) 頭痛、顔面紅潮など
多価不飽和脂肪酸 イコサペント酸エチル(エパデール、ソルミランほか) オメガ-3脂肪酸エチル(ロトリガ) 出血、発疹など
出典『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス』(日本動脈硬化学会、2014年)を一部改変中性脂肪が高いタイプには、高LDLとは別の薬を使うのでしょうか。 寺本 中性脂肪が肝臓で作られる過程をブロックするのがフィブラートで、中性脂肪を下げるのに高い効果を発揮します。この薬は、リポ蛋白リパーゼ(LPL)という酵素が中性脂肪を分解するのを促してくれます。 フィブラートの問題は、腎臓の悪い人に使いにくいことです。多くのフィブラートは腎臓から排泄されるので、腎臓が悪い人が使うとフィブラートがうまく排泄されず、血中に溜まってしまいます。そのため副作用が出やすく、注意を要します。 2017年頃には、新しいフィブラートのペマフィブラート(商品名未定)が発売予定です。この薬は肝臓で分解・排泄されるので、腎機能の心配はいりません。ただ、新薬は長期に処方できないので、2週間に1回は受診することになります。その煩わしさから、発売後1年ほどはペマフィブラートの恩恵にあずかる人は少ないかもしれません。

善玉のHDLを増やす特効薬は「運動」

善玉のHDLが低いタイプの人は、何に気をつければいいですか。 寺本 善玉のHDLには食事はほとんど関係なく、代わりに効くのが運動です。低HDLの原因は、喫煙、肥満、運動不足の3つですが、多くの場合、運動すれば数値は上がります。運動は、中性脂肪が高いタイプにも有効です。 特に効果的なのが有酸素運動です。その証に、マラソン選手はHDL値が高い人ばかりです。走るなら、少し息がはずむ程度の軽いジョギングがいいでしょう。ここで肝心なのは継続すること。中断しないよう、無理のない運動を選ぶ必要があります。早歩きでも何でもいいので、とにかく続けてください。 有酸素運動に加え、筋力トレーニングも重要です。筋肉の動きが活発になると糖の利用が増え、糖尿病のリスクが下がります。動脈硬化にはストレスも関与するため、筋肉を使ってストレス解消できれば一石二鳥です。  
寺本民生(てらもとたみお)さん 帝京大学理事・名誉教授 臨床研究センターセンター長/寺本内科・歯科クリニック内科院長
寺本民生さん1973年東京大学医学部医学科卒業。1980~82年シカゴ大学留学後、1990年東京大学医学部第一内科医局長、1991年帝京大学医学部第一内科助教授、97年同内科教授、2001年同内科主任教授、2010年同医学部長を歴任し、2013年より現職。専門は内分泌・代謝(脂質異常症)・動脈硬化。 『患者のための最新医学 脂質異常症(コレステロールと中性脂肪)最新の食事療法』(高橋書店)、『中性脂肪とコレステロールをぐいぐいさげる本(楽LIFEシリーズ)』(笠倉出版社)、『あなたも名医!パターンで把握する脂質異常症治療―押さえておきたい処方のバリエーション(jmed mook)』(編集、日本医事新報社)、『最新版 本気で治したい人のコレステロール対策:動脈硬化を防ぐ!(明解!あなたの処方箋)』(学研パブリッシング)ほか監修/編集多数。