JT、M&A巧者に試練

参考:2016/12/6 5:30日本経済新聞 電子版

JT、M&A巧者に試練

証券部 川路洋助

たばこ業界で世界的な再編機運が再び高まっています。英大手ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)は10月、米2位のレイノルズ・アメリカンに買収を提案しました。世界最大手の米フィリップ・モリス・インターナショナルが米首位のアルトリア・グループと合併するとの観測も根強いです。こうした中で、再編に取り残され気味なのが世界3位の日本たばこ産業(JT)です。BATの買収が成立すれば、世界のたばこ市場はフィリップ・モリスとBATの「2強」の構図が鮮明となり、JTは一気に劣勢に立たされかねません。海外での大型買収で成果を残し、M&A(合併・買収)巧者とされる同社が試練に直面しています。
JTはM&Aで海外ブランドを手に入れてきた(写真は「ナチュラル・アメリカン・スピリット」のたばこ)
JTはM&Aで海外ブランドを手に入れてきた(写真は「ナチュラル・アメリカン・スピリット」のたばこ)
実は、株式市場にはJTの次の一手を期待する声があります。英大手のインペリアル・ブランズの買収です。実現すれば、JTが強みを持つ欧州市場でのシェア拡大につながるだけではありません。電子たばこ事業などごく一部の事業しか展開していない米国でも、インペリアルが持つ1割弱のシェアを取り込めます。2強に対抗できるだけの経営規模をJTは手にすることができるのです。 財務面からみれば、「買って買えないことはない」(国内証券アナリスト)との見方も買収観測を後押ししています。JTの有利子負債は9月末で6428億円。今年初めにナチュラル・アメリカン・スピリットの米国以外の事業を買収したのに伴い、負債が前年末の2.5倍と膨らみましたが、それでも負債を自己資本で割った割合であるDEレシオ(負債資本倍率)は0.29倍と低い水準を維持しています。 インペリアルの発行済み株式の半分を時価で取得し子会社化すると仮定すると、買収規模は2兆2000億円程度。これをすべて借り入れで賄うとすると、DEレシオは1.3倍まで上昇する計算です。財務は大きく悪化しますが、今のJTが耐えられない水準ではありません。 もっとも、この“秘策”は当事者のJTが否定的です。「インペリアルを買うには相当複雑なスキームが必要だ。現実的でない」。10月末の記者会見で、宮崎秀樹副社長は大型買収に慎重姿勢を見せました。なぜでしょうか。それには2つの理由があります。 1つが独禁法の問題です。インペリアルのお膝元の英国で、JTは既に42.1%のトップシェアを握っています。英2位がインペリアルですが、そのシェアは41.9%と拮抗しています。買収に動けば、合併に伴う25%以上のシェア拡大を制限する英独禁法の対象に当然なります。買収を仕掛けるにしても、英国事業は対象外にしなければなりません。スペインなど他の欧州各国でも、そのまま買収すれば現地の独禁法に抵触する可能性が高いです。このためJTやインペリアルが持ついくつかの現地ブランドを他社に売って独禁法をクリアするだけの規模に落とす必要があります。 もう一つが米国の訴訟リスクの高さです。「仮に米国に本格的に出ようとすれば、法務関係の人員を今の3倍にしないと対応ができない」と、JT幹部は漏らしています。 「しばらくはジャブを繰り出すしかない」。JT首脳は話しています。ジャブとは新興国でのM&Aのこと。1件当たりの買収額は数百億円とJTからすると大きくありませんが、成長への足がかりが築けます。実際、7月にはエチオピアのたばこ専売会社の株式40%を約535億円で取得しました。 ただジャブがライバルに与えるダメージは限られます。高成長が見込める蒸気たばこの分野でスピードを持って強力に世界展開を進めるなど、これまでとは違う戦略が必要になりそうです。