「ローファットよりロカボ」のエビデンス

参考:2016/1/25 日経Gooday

「ローファットよりロカボ」のエビデンス

メタボを解消、アンチエイジングにも効く「ロカボ」の威力

山田 悟=食・楽・健康協会代表理事

食事における油の摂取比率を減らす「ローファット」という考え方が、この10年でゆらぎ、代わって糖質の摂取比率を減らす「ロカボ」(ローカーボ、糖質制限)という食事摂取指針が台頭しています。なぜローファットよりロカボなのでしょうか? その根拠となる研究データや具体的な食事法について、糖尿病患者の食事療法に長年取り組んできた糖尿病専門医で食・楽・健康協会代表理事の山田悟さんに、日経Goodayセンター長の藤井省吾がインタビューしました。

「ローファット」では体重も病気も減らない

――「健康のために油や脂肪のとりすぎは控えましょう」と、教えられてきました。ところが、脂肪を減らすローファットの食べ方がダイエットや病気予防につながっていないことが明らかになってきたそうですね。

山田 そうなんです。今、栄養学が大きく変わろうとしています。そもそも1958年に開始されたアンセル・キーズによる7カ国の栄養摂取と心臓病による死亡率の関連を調べた研究において、油の摂取量の多さが心臓病死と関連する、という結果が導かれたこと、そしてその結果がデータとしてあまりにもきれいだったことから、検証が行われずほぼ事実と認定されたのが問題でした。
その後、1977年のマクガバン・レポートによって「米国人は食事における油の摂取比率を減らすべき」という指針が国会で承認され、アメリカ人はどんどん油を減らそう、とメディアもビジネス現場も動きました。しかし、油の摂取量が減る一方でたんぱく質摂取量は変わらず、糖質摂取量ばかりが増え、肥満と糖尿病が増加しました。 そこで「油を控えるのは果たして正解か」という見直しの運動がこの10年ほど行われているのです。その結果、「油を控えることは血液中の中性脂肪を下げるのに有益ではない」(Circulation;123, 2292-2333, 2011)「油を減らす介入試験を行ってもがんや心臓病による死亡率は減らない」(Open Heart;2, e000196, 2015)、といった報告が続いています。反対に「糖質制限を行うと肥満や血中脂質、糖尿病、高血圧などが改善する」(Obes Rev;13, 1048-1066, 2012)という報告も集まりつつあります。

――驚きですね。動物性の飽和脂肪酸はよくないから、お肉を食べるときには脂身はよけるのがヘルシーだ、と考えてきましたから。

山田 食べる油の量が多いと血液中の中性脂肪も高くなる、という思い込みゆえなのですが、実はその逆で、食事で摂取する脂質が高い人ほど中性脂肪が下がる、という研究報告もあります。 ――ただ、私たちは健康診断で中性脂肪値やコレステロール値が高いと、医師から「夕べ、油の多い食事をとりましたね?」と指摘されます。すると、油をとる=中性脂肪やコレステロールが増えるんだ、と考える。 山田 普通はそう思いますよね。医者もそう思い込んできたのです。医者は医学生のときも医者になっても、栄養学を学ぶ機会はそうそうありませんから。

メタボも糖尿病も老化も「ロカボ」で防げる

――糖尿病を気にする人、メタボを気にする人、体型を気にする人、みんながやるべきは、糖質を減らして油はもっととる、ということでいいですか?

山田 そう考えています。というのも、脂質異常と高血糖、高血圧は根っこが共通していて、糖質を減らすことによって脂質は改善し血糖値も血圧も下がり、体重も落ちる、全部良くなるからです。 さらに、今はまだ異常値が出ていない健康体の人にとっても糖質制限は有効です。血糖値の急上昇と急下降を防ぐことによって、老化を早める酸化ストレスを軽減できます。また、1日の中で血糖値が高い時間を少なくすることによって、体内のたんぱく質に糖がくっつき動脈硬化などを引き起こす“糖化”も防ぐことができます。 つまり、老化の引き金となる“酸化”と“糖化”の両方を抑えられることは全ての人にとってアンチエイジングとなり、ひいては認知症や発がんといった病気に至るプロセスを抑え込むことにもつながるのです。

――つまり“ローファット”より“ロカボ”なんですね。

山田 僕の意見としては、少なくとも日本人の場合、動物性脂肪の摂取が多くても心臓病は増えない、脳卒中は明確に減る。飽和脂肪酸摂取に制限をかけるべきではないと考えています。 むしろ控えるべきは、糖質です。炭水化物には消化吸収されてエネルギーになる糖質と、消化吸収されない食物繊維があり、制限するべきなのは食物繊維ではなく、米、パン、麺などに含まれるでんぷんや、果物の果糖、砂糖のショ糖などです。

――油をとっても良い具体的な“ロカボ”の食べ方とは?

山田 私が提唱しているロカボは、主食は1食あたりご飯は軽く半膳、食パンなら6枚切りを半分か1枚に抑える、おかずからはイモ類を抜き、血糖値を上げないたんぱく質や油は満足するまで食べていい、というゆるい糖質制限食です。 この方法で、1食あたりの糖質量を20~40g、1日あたり合計130g以下に抑えると、血糖値やインスリン値の増加を抑えることができます。カロリーゼロの甘味料であればスイーツも食べられますよ。楽しんで続けられるのが、ロカボ最大の特徴です。

――実際に患者さんに指導されて、いかがですか?

山田 カロリー制限よりもはるかに受け入れられやすい。「先生、これならやっていける!」とおっしゃる方が本当に多いです。実際にHbA1c値(糖尿病のコントロールの指標となる代表的な血液検査値)が下がりますし、続けやすく有効性も高い。これはいいな、と確信しています。意識するのは、糖質を抑える、という1点だけでいい。主食を抜くのもひとつの手であるし、主食を食べたいならその量をコントロールすればいいのです。 また、油を食べるとGIP、たんぱく質を食べるとGLP-1、という、いずれも食後の血糖上昇にブレーキをかける消化管ホルモンの分泌が促進されます。おかずをたくさん食べてよい、というと塩分過多を心配される方もいますが、料理に油を使うと、うまみによって味の輪郭がはっきりし、結果的に薄味で満足できる。47都道府県の油の摂取比率と塩分の関係を調べたところ、負の相関があった。つまり、油をしっかり使うと塩分を減らせるのです。

――それにしても、こんなに大切なロカボが、どうして最近まで言われてこなかったのでしょう。

山田 科学的に検証された最新の研究成果に基づき医療を実践するという重要性についてしっかりと認知されたのが1990年代だったからではないでしょうか。2007年から現在に至るまで、糖質制限食の有効性を示す論文がどんどん発表されています。満足するまで食べられ、引き締まった体形が得られ、血糖値も脂質も血圧も改善する。この食事法の良さを多くの人に広めていきたいですね。
山田さんの実践する油生活
ナッツやくるみを積極的に食べる 小腹が空いたらとりたいのがナッツ類。特にお薦めはクルミ。「クルミを積極的にとると脂質代謝が改善されます。かなり優れた食材だと思います」(山田さん)。バターなど動物性脂肪をとる 飽和脂肪酸はしっかりとっていい、と考える。「油分をとると満足感が増し、糖質を制限していても空腹感を感じにくくなるというメリットもあります」(山田さん)。
(インタビューまとめ:柳本 操/写真:稲垣純也)
山田 悟(やまだ さとる)さん 食・楽・健康協会代表理事
山田 悟(やまだ さとる)さん慶應義塾大学医学部卒業。同大学医学部内科学教室などを経て現職。日本糖尿病学会専門医。北里研究所病院糖尿病センター長。 著書に『おいしく、楽しく食べて、健康に ロカボバイブル』(幻冬舎、2015)などがある。
(出典:『一生若くいられる 油のとり方最新ガイド』日経BP社 2015年11月発行)

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